KnightsofOdessa

フェアウェルのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

フェアウェル(2019年製作の映画)
2.5
[自分への嘘を塗り潰す他人への嘘] 50点

"実際の嘘に基づいている"という冒頭の不穏な字幕が示す通り、監督ルル・ワンが実際に直面した"嘘"に緩く基づいた物語である。幼い頃中国からアメリカに移り住んだビリーは、中国で暮らす大好きな祖母が肺癌で余命幾ばくもないことを知るが、中国の慣習では死にゆく人にそれを伝えないことになっているため、本人に知られないように"嘘"を付き続けることになる。日本で暮らす甥ハオハオの結婚式のために中国で集結した親族は、誰も祖母には伝えようとせず、一人の人間として事実を伝えようとするビリーは残りの親族と対立する。映画は"お前言うなよ?"や"言ったほうがいいのでは"という会話が場所を変えメンバーを変えながら呆れるほど登場し、文化的差異でせめぎ合うビリーの内的問題にも踏み込む。

ビリーは幼い頃にアメリカに渡ったため、中国語でも知らない単語があることが示唆されるなど、一家の中では一番アメリカに染まっていると考えられる。彼女は嘘を付き続ける文化も知らなかったため、中国の文化には疎いはずだ。しかし、大好きな祖母はビリーを溺愛しており、彼女がすでに中国人の文化から離れてしまったことに気付いていない。その証明のように、祖母はハオハオの連れてきた日本人の女性が中国文化を何も知らないこと(そりゃそうだ、結婚のために中国に来ただけだから)を理由に、あの娘は嫌いだと言い切る。ビリーは何も返せない。しかし、親戚同士が中国の良さとアメリカの良さを語り合って喧嘩になっても、"双方に双方の良さがある"としか返せないビリーはアメリカにすら軸足を置けず、定まりきらない帰属意識が浮遊していることも暗示させる。英語を理解しているのがビリー親子だけという設定から、英語と中国語を両方喋る必然性が生まれるのも非常に上手い作りだ。

安っぽい劇伴と過剰な繰り返しは、二つの文化を大切にしながら一人の人間として苦しむ女性の等身大の姿を捉え、それが評価につながったのだろうということは理解できる。ありきたりな展開を吹っ飛ばすラストは奇妙な余韻を残すだろう。しかし、結局はアイデンティティの放浪の辛さを嘘を付くしかない辛さが上塗りしてしまい、前者のせいで後者が余計に辛いという設定に終わってしまったように思える。基本的にはクリシェを積んでいくだけなので、我々が観たいものを観たという感覚に近いだろう。しかも、事実を基にしているせいで、肩透かしを食らうラストも完全な蛇足だったように思えてならない。取り敢えず、監督の今後に期待しよう。

追記
ド派手な結婚式、親愛なる家族に嘘を付き続けることなど要素がアン・リーの『ウェディング・バンケット』に似ている。
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