KnightsofOdessa

山の焚火のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

山の焚火(1985年製作の映画)
4.9
[] 99点

超絶大傑作。フレディ・M・ムーラー長編二作目。これまで観るのを躊躇っていたのを後悔しているくらい素晴らしかった。物語はスイス田舎村の山の中腹にある小屋で暮らす家族を追う。老夫婦には二人の子供が居て、姉ベッリは教師になる夢を諦めて実家に戻り、耳が聴こえない弟は名前すら呼ばれず、"坊や"と呼ばれている。弟には聴こえないので、言語を介さない会話として虫眼鏡や双眼鏡の映像、鏡による反射、窓から見える梨の木といった視覚情報が重用され、姉の聞くラジオなど聴覚情報は嫉妬の対象として排除される(あんなハッとする反射は『5windows eb(is)』以来)。また、舞台が山の中腹ということもあって、全てが斜面の上に構築されている。しかし人間が生活するにはそこに自然の摂理に反する平面を作らねばならない。不安定さに足を取られ転がり落ちるように物語も不可逆な方向へ落ちていく、その必然性が冒頭から提示されているようでもある。背景に見えるのも双眼鏡で覗くのも山の斜面であり、山麓/平野/底といった意味での平面が一切表れないのも不穏さが増していく。良い。とても良い。
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