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ひとよのkassyのレビュー・感想・評価

ひとよ(2019年製作の映画)
3.8
試写会にて。
白石和彌監督登壇。

子供に家庭内暴力をふるう夫を殺し、母は15年後に帰ってくると子供たちに言い残し、刑務所へ。そして15年後、言葉通り母は帰ってきた・・

白石監督の前作凪待ちと雰囲気は似ているが、こちらは予告で抱いていた印象よりも笑える部分もあり、かなり重たい作品だと思って行くと少し印象の違う作品だと感じるかもしれない。
田中裕子さん演じる「母」は一見飄々として日々を過ごすので、意外と淡々と日々が進んでいくのが興味深い。

三兄弟は母が刑務所に行ったあと、それぞれ受けてきた境遇もあり、母が帰ってきたことによる反応は人それぞれなのだが、タクシー会社を引き継いでいた音尾琢真演じる従兄弟や、タクシー会社の従業員の方が母に対して友好的な疑似家族となり、肉親の三兄弟の方が戸惑ってしまうという構造は面白い。

映画の中心には「母」がいるが、色々な家族の問題を重ね合わせながら「親」と「子」の因果について考えさせられる。
親がやってきたことは、子どもの人生に対しても引き継がれてしまう業の深さ。子どもがいかにそこからもがいて生きていくのかについて考えさせられる。

エピソードの重ね方、人物を言葉ではなくシーンで表現する上手さはかなり巧みである。脚本がスマートすぎる感もあるが。
ただ佐々木蔵之介さん関連のエピソードについてはやや唐突な印象も受けるが、最終的には佐々木蔵之介さんの力技でなんとかなっていた。
終盤はドラマティックな展開であるが、佐藤健くんがもっと見苦しくなっても良かったと思うくらい爆発力が少し弱かったので、そこは少し肩透かしではあった。

それにしてもこの映画のキモはやはり田中裕子さんの演技力と存在感。
初っ端から田中裕子さんのお芝居の凄みに惹きつけられる。
あえて飄々とし、時には子供を見つめ、あたたかく対応し、寂しい姿や、背中を見せる姿も。ラストに見せる姿にグッとくる。
他の仕事をセーブして白髪で挑んだという意気込みが映画にとても出ていた。

三兄弟の距離感も良い塩梅だった。
白石監督がティーチインで一番好きだと言っていた、三兄弟の「でらべっぴん」のシーンが、兄弟の空気感が伝わってきて私も一番好きです。
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