賽の河原

風の電話の賽の河原のレビュー・感想・評価

風の電話(2020年製作の映画)
3.1
この映画、アップリンクで予告は観てたんですけど、この前『風の電話』観てみて下さいって言われまして。え?と思ったらモトーラ世理奈さんのファンだそうでね。すげえセンスしてる人がいるなぁと思いつつ「『少女邂逅』に出てた人でしょ?」「えー知ってるんですか〜?」みたいなね。
とにかくモトーラ世理奈さん、『少女邂逅』が私には焼き付いてるんですけど、もう一度観たら絶対に忘れない存在感の女優さんですよね。いわゆる世間的な美人とは違ったタイプなのかもしれないんだけど、映画に出てくるとすげえ印象に残る女優さん。
せっかくなんで公開初日に観てきましたけど、相変わらず圧倒的な支配力で最高でしたね#最高
とりあえずこの女優さんが映ってるだけで映画として成立するっていうさ。そういうパワーを持った人が演じる少女のロードムービーですよ。
東日本大震災で家族を失い、岩手の大槌町から広島の呉へ越した女の子が岩手に戻っていくっていう。大変最高な映画でしたよ。
ちょっと意識が高すぎるっていうか、物語の質量に対して映像の作りが重すぎるので、序盤はなかなか退屈でね。ほとんどセリフなしで少女の喪失の大きさを描くっていう。長いですけど。
中盤以降、岩手へ向かっていくロードムービー展開はいい感じでね。まあほどよく喪失を抱えたり、社会的な問題だとか歴史的な傷で共鳴しつつ、福島や岩手、いよいよ震災の本丸へと行く。
正直そこまで刺さった映画ではなかったんですけども、被災地を舞台にしたシーンはこれまでの被災地で撮ってる映画のなかでもかなりいい映画だったと思います。
私も昨夏陸前高田に伺いましたけど、やっぱり今の被災地を見たときに一番ゾッとする光景って震災遺構とかもそうなんですけど、いわゆる「復興」がなされて、田舎の街なんだけど、道路も建物も電信柱もガードレールもなんでも、街を構成するモノ全てがのっぺりと真新しいっていうあの街並みだと思うんですよね。
パッと見れば新しいモノだけで出来た街並みなんだけど、その新しさとあの東北のどんより感というかさ、曇ったイルな感じの禍々しさをきちんと映し出せているのが素晴らしい。
そしてそういうロケーションで描かれる人間同士のドラマも完全に呼応している。要は表面上は時も経ている。そして表面的には綺麗に生まれ変わっているように見える、しかし、その表層を一枚めくったときの悲しみ、喪失、傷の深さですよね。
主人公のハルが岩手に着いて、当時の友人の母親と会うシーンが白眉ですよ。
脇を固める役者も非常に豪華ですし、福島の家の描写とか、大槌の自宅に帰るところだとか、バキバキに決まった映画的で印象に残るショットも美しい。
全体的に惜しいのは冗長さ。例えば終盤、ややとってつけたような形で風の電話のくだりになりますけどね。ここで主人公が電話をするショットが正面から。ワンカットで電話をするシーンがありますけど、「そのショットから得られる感情量」ってあるじゃないすか。「あー、いいねぇこのショット!」っていう。
でもそのショットにカタルシスを感じても、延々とおんなじショットが続くと「いつまでこの映像なんだよ。もうこのショットで感情は動きようがねぇよ」みたいなさ。
その上ラストカットで風の電話映してクルマから右から左へ。「はい!ここでカット!エンドロール!」っていうキレめに見えるのに、まだカットを引っ張る。「左から右にクルマが走る...まだカットしない、あっ、終わった。」みたいな。
この映画、全体を通してそういうシーンが多くて、「いや、もうこのショットは使い切ってるよ?」っていうところをかなり引っ張るんですよね。好みは色々あるだろうけど、私はこの映画が2時間以上かかるってのはよく分からなかったですなぁ。
もっとスパッスパッと切ってテンポ良く行くと、バキバキに決まったショットの破壊力も増すんじゃないかとも思いましたが、このローテンポだからこそ描ける喪失感だとか機微もあるのでなんとも言えないっすね。
ひとまず震災をモチーフにした映画としては相当出来がいい、というかメルクマールとなりうる可能性すら感じさせる最高作品でしたな。
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