かなり悪いオヤジ

新感染半島 ファイナル・ステージのかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

3.5
最近はカー・アクションにも力を入れているのがハッキリと伝わってくるコリアン・ムービー。もはや折り紙つきの血ミドロバイオレンスに止まらず、本家ハリウッドをも射程にとらえた勢いを感じるのである。それは何故か。幼気な少女のかるSUVがゾンビどもをまるで虫けらのようにはね飛ばし引き殺すシーンなどを見ていると、映画倫理規程でがんじがらめになったハリウッドが最近手を染めなくなったジャンルを、とことん責めている気がするのだ。万事において及び腰の邦画界など、韓国映画人にとってもはや眼中にはないのかもしれない、と思えるほどに。

ゾンビ映画はもはやネタができって不毛と化している分野なのかもしれないが、この映画、まだまだしぼればいくらでもアイデアが出てくることを証明している。韓国全土の国家機能が停止した近未来を描いているという点では、あの『ゾンビランド』に近い世界観なのかもしれないが、こちらはおふざけ殆どなしのシリアス路線。ゾンビウィルスに罹患した家族を見捨てたトラウマを抱えた元韓国軍大尉ジョンソクが、軍人としての、人としてのプライドを取り戻すヒューマンドラマにもなっているのである。

『ベイビー・ブローカー』にも出ていたちょい地味めの俳優カン・ドンウォンが主人公のジョンソクを演じているせいか確かに“華”はないのだが、ゾンビの巣窟と化した半島から現金を持ち帰る脱出劇は、あの『ニューヨーク1997』を彷彿とさせる緊張感。ことアクションに関しては、余計な寄り道をしないシンプルなストーリーの方がむしろ成功するケースが多い気がする。映画冒頭、姉家族を載せた車を運転するジョンソクが置き去りにするある家族の顔を、よく覚えておいた方がいい。この映画注意すべきはその一点だけなので、記憶力が衰えがちなバブル世代以前の方が見ても安心して最後までノッていけることだろう。

じゃあゾンビが敵なの?というとそうではなく、むしろ光と音に反応するゾンビの皆さんを逆利用して追っ手から逃れる、主人公たちの知恵の見せどころに着目すべき映画なのである。敵の敵は味方。ウィズ・コロナの時代に相応しい、なるほどねと思わせる戦法が新しいのだ。歩道橋や駅の階段から、雨あられのごとく次から次へと降ってくるゾンビたち。ラスト、娘たちを救うため母さんがとった決死のサクリファイスを目撃したジョンソクは....「俺はあの時本当に合理的な選択をしたのだろか?最後まて諦めないでがむしゃらになって戦うという選択肢もあったのではないか」この後、ジョンソクの常識はずれの行動が奇跡をもたらすのである。