Kuuta

ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビューのKuutaのレビュー・感想・評価

3.4
昨日見た「mid90's」がとても良かったので、今日は妹の映画を。すげーちゃんとしてるんだけど…。イマイチ合わなかった。

冒頭からビックリした。人種や容姿、セクシャリティで差別せず、金持ちで良い大学に行ける、リベラルで自己肯定感に満ちた高校生しかいない…。

これはどんな世界線のアメリカなんだ…?と一瞬悩んだが、演劇部推しが強いので、映画全体が演劇的というか、「ナイブズアウト」的な一種の寓話というノリで観ていた(演劇部の2人は常に自分のペースを保っていたし)。

卒業前夜ものの米製コメディとしては、定番の面白さが保証されている。ブックスマート(頭でっかち)な優等生が、パーティーで初めて他者と触れ合い、レッテル張りの向こうにある世界を知るストーリー。凝り固まった主人公エイミー(ビーニー・フェルドスタイン)の言動が変わっていく。

過去のこの手の青春映画に比べ、あらゆる展開が現代的にブラッシュアップされている。一つ一つの「正しい」伏線回収や殊更に「敵」を作らない物語構成。「なるほど兄貴の童貞ウォーズはこうやってアップデートされていくのか」と、頷いているうちに映画が終わっていた。

残念ながら、笑いと共にテーマが突き刺さったというよりは、正しいお話を割と「頭でっかち」に聞いている自分がいた、というのが正直な感想だ。

テーマは間違いなくアップデートされている。でも、娯楽映画としての語り口や、映像の美しさ、演出の練り込みに目を向けると、過去作より優れているとは言い難い。

隙のない、ちゃんとした映画である(二度目)。10代に是非観て欲しい。でも、この映画をトランプは観ないし、トランプ支持者も何も感じないだろう。そもそも前提とする世界観が違うから。「オバマの娘」が皮肉として登場するが、これもリベラルが怪我しない範囲で使っている感じがして…。

「他者を知ろう」という映画なのに、リベラルの外側にいる他者には届かない作りに見えてしまう。トランプ支持者すら巻き込む映画、それこそナイブズアウトや、何ならジョーカーの方が、社会風刺のコメディとして私は好みだ。

映像面で言うと、パーティーとプールで長回しがあれば条件反射で「ブギーナイツだ!」と喜ぶ私としては、あのシーンは熱かった。昼と夜の対比のように、水面を行き来して世界を知っていく切なさ。

個人で楽しむはずのポルノがテクノロジーの力で無理やり他者と共有されてしまうシーンは、物語のテーマを逆説的に浮かび上がらせており、良く考えられたギャグだと思った。

SNSの断片的な情報から家を特定する、他者との繋がりを欠いたネット民への皮肉。彼らにパーティーでスポットライトを向けるのが、スマホの録画の光だけである点は見逃せないだろう。結局、他者を求めた彼らの姿もまた、SNSに回収されていく。かなり現代的でシビアな、上手い描写だなーと思った。68点。
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