ずどこんちょ

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊のずどこんちょのレビュー・感想・評価

3.2
ウェス・アンダーソン監督最新作は、架空の雑誌「フレンチ・ディスパッチ」の複数の記事を映像化するという意外過ぎる構成です。
服役中の天才画家と看守の秘密の関係の話、学生運動の若者たちに取材した記者の話、警察署長お抱えシェフに取材したところ誘拐事件に遭遇した話など、ベースが雑誌の記事なのでゴシップや社会問題などジャンルは多種多様です。

そんな想定外の構成で展開されるところ、今回はウェス・アンダーソン監督の芸術的感覚を最大限発揮したといった感じでした。
カメラ固定で役者たちが正対するようなファンタジーな映像はいつものことですが、モノクロトーンの映像が続いたと思えば、時折、重要なシーンで色が付きます。印象的に、効果的に映そうとしているのでしょう。
そうかと思えば、画面のサイズも変化します。突然、アニメが取り入れられたりします。
とにかく物語の展開を効果的に印象的に映そうとする工夫が全編を通して感じられました。いや、工夫というよりも……監督の天才的な感性なのかもしれません。

とは言え、少々、難解だったと感じたのも事実です。今までの作品と比べるとストーリーが簡潔ではなかったように思えます。
記事の映像化ということで、それぞれの記者のモノローグも多めで、その語りが比喩的だったり、詩的だったりするのです。
なぜ学生運動が発展してチェスで闘うことになるのか、いまいち理解が追いつかず。
集中力散漫な状態だとついていけなくなる部分もありました。

それと、相変わらず監督の作品はキャストが豪華です。
編集長役を常連組のビル・マーレイ、記者役をフランシス・マクドーマンド、ジェフリー・ライト、ティルダ・スウィントン、オーウェン・ウィルソン。
その他にも数々の名優たちが顔を出します。素晴らしい。

豪華な俳優陣を揃え、芸術的センスが爆発していて、どこのシーンで停止しても印象的な絵になります。
とは言え、うーん……やはり今回はマニアック過ぎたのかもしれません。
実は今回の記者たちは「フレンチ・ディスパッチ」誌のモデルとなった「ニューヨーカー」という雑誌で実在していた名物記者たちがモデルになっているらしく、もしかするとそういうのを知っていると、取り上げる記事の癖とか文章の癖とかでニヤニヤするのかもしれません。
また、本作ではウェス・アンダーソン監督のフランスへの愛情が爆発しており、フランス映画の名作を踏襲した傾向もあるようです。
しかし、これらは私には残念ながら分かりませんでした。無念…。

つまり、本作はとにかく文化的レベルが高いのです。タイトルからして、マニアックな雰囲気が漂っています。
決してエンターテイメントな映画ではなく、芸術的センスを至高の域にまで高め、文化的知識が豊富なほど楽しめるわけです。
いつかその辺りの知識を得て、もっと経験を重ねた時に再び見たら、より一層意味が分かって楽しめるのかもしれません。
とにかく今は、「なんとなく芸術的で美しい」「なんとなく雑誌の記事を読んでるようなゴシップ感があるな」というナチュラルな感覚で受け止めるのでオーケーだと思いました。