Inagaquilala

燃ゆる女の肖像のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.0
ブルターニュの孤島で展開されるメインの物語が、あまりにも美しく鮮やかなので、忘れてしまいがちなのだが、これは1人の女性画家の回想の物語でもある。18世紀のフランス、まだ女性は社会的な権利から遠い場所に押し込められ、女性画家というのもあまり存在しなかった時代(作品のなかで自分の書いた絵は父の名前になっていると主人公は語る)が舞台だ。主人公が絵画を教えている時点が「現在」で、遡る回想は都合3つ登場する。前述の孤島での出来事と、最後にいったん「現在」に戻り、また畳みかけるように語られる2つの回想だ (この部分、息が詰まるほど心が動かされる)。

つまり極論すれば、すべて回想で語られる出来事は、もしかしたら主人公の頭の中で起きていることと捉えられなくもない。うがった見方をすればそうなるが、それでは話が始まらないので、主人公の脚色が入った過去の出来事くらいに止めておこう。そう思ってしまうのは、この作品にはほとんど女性しか登場しないからだ。このあたりフランスの女性監督であるセリーヌ・シアマは、巧みにつくり上げている。基本的には旧弊な時代の女性同士のラブロマンスを描いている作品なのだが、全体が監督のマジックの中にある。細部まで凝らされた設定や、後に鮮烈に明らかにされる伏線など、クオリティも完成度も高い。これはほとんどアートの部類かもしれない。とにかく、おそらく何度観ても新たな発見に遭遇する作品だと思う。間違いなく傑作。
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