髭ゴリラ

名もなき生涯の髭ゴリラのレビュー・感想・評価

名もなき生涯(2019年製作の映画)
4.2
映画って、人の価値観を覆してしまうほどの
強くしなやかな影響力を持っていると思う。

それは、ある一定の条件が伴い
「現代社会の光と闇」
「自身の生活や内面的苦悩と葛藤」
「求めていた夢と現実」
などの自身の「線」に触れた時に「パチン!」と
音がするような感覚になる。

この映画を鑑賞している時、その音がした。

ロシアとウクライナの戦争が今も続く中
ぼんやりと、時に笑って時に泣いて
普段と変わらない生活、コロナ禍が続く生活を送る中で
見て見ぬふりではないけれど
自身の生活を守ることで必死になろうとしている自分がいる。
考えてなんとかなるものではないと言い聞かせるように。

そんな時だからこそ、この映画は観るべきで
今観て本当に良かった。
良かったという表現はあまりに安易なんだけど...

冒頭10分の「家族の風景」
「夫婦の愛を確かめ合う姿」が
このあと待ち受けるであろう苦難を想像出来るが故に
たまらない気持ちになった。

どう描いたって戦争を描く映画は正義が正義だけでは
映すことは出来ないのもわかってる。

まさに「名もなき生涯」が物語る信念とストーリーは
戦争や世界に勝つか負けるかではなく
今を生きる私たちに問いかけるように
「あなたにとって正義とは愛とは」を
求めるかのように訴えかけてくる。

3時間ほどの長尺の作品の内容は
紆余曲折があるわけではない。

あらゆる細かいカット割で
その実態とあらゆる視点から細かく細かく葛藤を描く。

ほぼ2時間ほど、ずーーーっとダンベルを
積まれてくかのように重く沈んでいく。

本当に苦しかった。見ていられなくなるほど。

だけど、映画だというのを忘れてしまうほど
主演の夫婦2人を中心に村人や出演者の表情や
演技があまりにも鬼気迫るアップで引きこれた。

セリフがとにかく最低限。というよりか、
「詩」のようで「朗読」のようだった。
だからこそ、その一言の重みがパンチラインすぎて...

雄大な自然。草原や山々。川の流れ。荒れ狂う空。
自然を写すことで物語られるストーリーにも心奪われた。

今も争い続ける人々。
消費し続ける資本的な風潮と生活。
無関心になっていく社会と政治。
触れ合うことに躊躇していく人間関係。
感情任せに罵り合う誤った言葉のやりとり。

今を生きる人々にこの作品は問いかけてくる。

70年以上も前の歴史に
「間違っている」「二度とあってはならない」と
烙印されたはずなのに

今も同じ未来を築いてしまっていないだろうかと。

情報社会や文化の違いだとか多様性だとか
無関心も相まって、感覚が「薄まって」しまって
ないだろうか。

ただただ、観終わってから自分に言い聞かせてる。
ただただ、家族を抱きしめたくなった。

ハッピーエンドとかバッドエンドとかそういうものではなく
これからどうするのか?と考えることを続けることを
多くの「名もなき生涯」たちが築いてきた歴史と未来を
どう生きていくのか。

そんなことをひたすらに今も考え続けて
語り合える人間関係やコミュニティを作りたいと
思わせてくれた作品。

映画って、ほんとすごい。ほんとに。
髭ゴリラ

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