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レ・ミゼラブルのkassyのレビュー・感想・評価

レ・ミゼラブル(2019年製作の映画)
3.7
試写会にて。

ヴィクトル・ユーゴーの小説「レ・ミゼラブル」の舞台でもあるパリ郊外のモンフェルメイユの現状をフィクションながら実際のエピソードを交えて描いた問題作。第72回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞。第92回アカデミー賞国際長編映画賞にもノミネートされている。

映画の冒頭は、モンフェルメイユの少年達が電車を乗り継ぎ辿りついた2018年のロシアW杯で歓喜に沸くパリ・シャンゼリゼ通り。様々な移民達が住むフランスでは、フランスに住みながら自分達が一体何人なのかという思いを抱えたまま生きている。そんな人たちを一つにするような象徴として描かれている。

しかし、そこからが映画の本筋となる。主人公のステファンは北フランスから諸事情によりモンフェルメイユの犯罪防止班へと配属されるのだが、移民や低所得者が多く住む危険な犯罪地域と化していることを目の当たりにする。

監督のラジ・リ監督はモンフェルメイユ出身で、この映画はフィクションではあるが、映画のエピソードは実際に見聞きしたことが盛り込まれているそうだ。パリから15kmという近さでありながら花の都パリとのあまりの落差に愕然とするショッキングな映画だ。とは言え、パリの治安の悪さも先進国の主要都市の中では群を抜いていると思う。スリの多さが半端ではなく、観光都市の中でも気の抜けない街となってしまっている。その原因がこの映画を見るとよくわかると思う。

不満を抱えた移民達。それを高圧的な態度で抑圧する警官達。
無意味な暴動は何も生まないので穏便にすませようとする大人達。
そんな大人達にも不満を持つ子供達。
誰が悪いわけではなく、ただ問題が根深い。
マクロン大統領もこの映画を見たそうだが、実際にこの地を訪れることはなかったそうだ。

前半はどこかだらけたような気さえするが、後半はピリピリとした緊張が映画を包む。
この映画を見て悶々としたやるせない気持ちを抱くことだろう。
しかしながら、知ることが第一歩だ。
綺麗な姿だけでなく、不満の声を聞くことが。

ラジ・リ監督は鬱屈とした移民達の不満の声を知っている。
だが知っているからこそ、そのパワーをぶつけて欲しいと無料の映画学校を始めたそうだ。拳を力に。彼のことを映画が救ったように、誰かの力になりますように。
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