スガシュウヘイ

プライベート・ライアンのスガシュウヘイのレビュー・感想・評価

プライベート・ライアン(1998年製作の映画)
4.0
【実際にあった話です】
 アフガニスタンでのこと。ラトレル二等兵は特殊部隊のメンバー三人とともに、秘密の偵察に出発した。任務はビンラディンと親交の深い、あるタリバン指導者の捜索だった。
 特殊部隊が目標の地に陣取ってまもなく、100頭ほどのヤギを連れた二人のアフガニスタン農夫と十四歳くらいの少年に出くわした。武器はもっておらず、民間人のようだった。ラトレル達は彼らにライフルを向け、地面に座るよう命じ、どうすべきか話し合った。
 ラトレル達は、そのときロープを持っていないことに気付いた。彼らを縛り上げ、任務が終わるまで拘束しておくことはできなかった。
 選択肢は、ヤギ飼いを殺すか解放するか、どちらかだった。

 解放した場合、彼らは自分たち(特殊部隊)の存在をタリバンに密告する可能性があった。しかし、ラトレル二等兵の良心は、非武装の民間人を殺すことを拒んだ。彼らはヤギ飼いを解放した、、

ーマイケル・サンデル著『これからの「正義」の話をしよう』より

(この話の結末は、レビューの最後で)

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本作をみたとき、この話を思い出した。
本作の戦闘シーンを見ていると、善悪の基準がわからなくなる。
どこが正しくて、何が間違いなのか。
誰が正しくて、誰が罪なのか。
これは何なんだ。

戦闘シーンがとにかく冷徹。普通の映画だったら、味方の兵士はあんなに簡単に死なない。
味方の銃弾は敵を撃ち抜くぬくけど、敵の銃弾はなかなか当たらない。それが映画ってもんでしょ。
でも本作にはそんな容赦はなかった。

アパムが一番「人間」だったと思う。彼は、大量出血する戦友を前に立ちすくみ、捕虜を殺さず逃がすべきといい、戦場では動けず、敵を目の前に腰をぬかした。

これが普通の人間なんだろうな。
私はアパムに共感した。

だから、アパムの最後の行動は悲しかったな。


とにもかくにも、戦闘シーンの迫力(大爆発とかはない、ただただ冷酷な迫力)がすごかった。
3時間作品だけど、戦闘シーンが凄すぎて時間を忘れた。


兄との思い出を語るマット・デイモンの笑顔も最高だった。


見てよかった。
名作。


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(アフガニスタンの続き)
ラトレルは自分の判断を悔やむことになる。
ヤギ飼いを解放して1時間半ほどした頃、四人の兵士は、重武装したタリバン兵100人ほどに包囲されていることに気づいた。激しい銃撃戦の末、ラトレルの戦友三人は全員死亡した。さらにラトレル達を救出しようとしたヘリコプターも撃墜され、十六名が死亡した。ラトレルは重傷を負ったが何とか生き延びた。

だから、ラトレルは、ヤギ飼いを殺すべきだったのだ、、、。


いやー、そうなのかな。
非武装の民間人を「殺すべきだった」というのは、果たして正解なんだろうか。


この問題は、ヤギ飼いを解放したらどうなるか結果がわからない、というところが、とても難しい。また、結果がわかっていたとしても、十四歳の少年を殺すことが正解というのは、どうにも納得しがたい。


一人を救うために、8人が命をかける。
そこには数の大小や、正義の右左もなく、もっと人間的な臭いが感じられる。


公開:1998年(米)
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:トム・ハンクス、マット・デイモン
受賞:アカデミー賞監督賞・撮影賞ほか。