塔の上のカバンツェル

ロスト・ストレイトの塔の上のカバンツェルのレビュー・感想・評価

ロスト・ストレイト(2018年製作の映画)
3.5
イラン・イラク戦争を描いた2018年のイラン映画。

1980年、突如イランに侵攻したイラク軍を食い止めようと奮戦する、革命防衛隊第27師団アルマ大隊の兵士たちを描くというもの。

イラン映画自体は、昨今の国内カルチャー界隈で俄かに盛り上がっていることは知りつつも、戦争映画でしかも、革命防衛隊が主人公の映画ならプロパガンダ臭は強めなのかと少し身構えていた。

蓋を開けてみると、兵士が動員されてから、国境線での激しい戦いまでの、およそ1日程度を、ほぼ戦場の混乱をメインに撮っている映画で、中々に見応えあり。

特に、戦場に着くまでの、避難民や退却する友軍の延々と続く車列、孤児や負傷兵の救助や、空爆される車列などなど…
開戦初期の現場の混乱具合というかバタバタ感に、かなりの尺を割いているのが、今作の見どころの一つ。

いざ戦場に着いてみると、弾薬箱や負傷兵が散乱する中で、イラク装甲部隊の戦車に肉薄する、革命防衛隊の面々という絶望的な状況が広がる…

という、アクション娯楽性がほぼない、実は結構真面目な戦争映画だった。

祖国への愛なども勿論語られるけど、そこまで強調されることもなく、"殉教"というワードが飛び出るあたり、あぁ、イスラム革命防衛隊らしさが出てるな、と思うと、殉教するつもりだったのに、本物の戦場でビビってしまう…とか、作品自体のアクの強さが実はかなり配慮されて抑えているのではないかと。


イラン・イラク戦争は、足がけ10年にわたり、戦車戦、塹壕戦、都市空爆、毒ガス攻撃、機動戦、航空戦…様々な過去の戦争の形態が凝縮された地獄みたいな戦争だったわけだけど、
開戦初期のイラクの装甲部隊に対して、革命で正規軍が弱体し、軽歩兵主体のイラン軍が文字通り肉薄して、国境地帯で押し返したその現場にいた人々を本作は描きたかったのだと。


イラク軍のT-55や、BMP-1、BTRなど、実車のソ連製兵器も多数登場しているので、かなり見応えはあった。