りょう

朝が来るのりょうのレビュー・感想・評価

朝が来る(2020年製作の映画)
4.2
率直に、自分は恵まれている、この映画を見てそう思った。というか、恵まれていることにきちんと実感を持てていない自分が腹立たしいし、何で理解できないのか、もどかしい。

前半、夫の無精子症が原因で、子供を授かれない夫婦。周りにも不妊治療やなかなか授かれない話を聞いたりもするが、その悲しさ、やりきれなさは本当に辛いものなんだろう。特別養子縁組っていう制度も、ベビーバトンのような存在も知らなかったけど、これは子どもを授かれない夫婦のための制度ではなく、生まれてきた子供が幸せになるための制度だっていう考え方に、なんて素晴らしい考え方なんだろう、そんな風に自分は思い至れないだろうなと思った。

一方、産みの親のひかり側の視点。責任が取れない年齢で子供を宿してしまった、ということはあるけども、大好きな人の子供、日に日に大きくなるお腹と過ごす毎日の心境は男の自分には想像もつかない。
ほんと男って楽だと思う。その分女性には母性っていうものがあって、子に対する愛情の深さは男として比較にならないと思うし、男性が経験し得ないものなのだと理解している。

親からも恥のように扱われ、負のスパイラルに陥っていく先に、再会した我が子。エンドロール最後につぶやかれる朝斗のことば。その最後の一言を聞かないと、この映画は見たことにならないと思えるほど、大切なことばだった。

子供を授かれない、あるいは、責任を持って育てられない、そういう人たちがいるということ。特別養子縁組という制度。それを何も知ることなく、子供と過ごせてきたということ。自分は恵まれている。

途中ベビーバトンの同居者が、特別養子縁組で何もかもを手にしようとしていて恨めしいと思った、というセリフがあった。そんな見方もあるんだと思ったし、多くを求めちゃいけないんだな、今の時点で充分なんだなって思わなきゃって思った。

永作博美、井浦新、蒔田彩珠、3人とも素晴らしい。特に蒔田彩珠さん、目の力や存在感、すごかった。先日「息をひそめて」の試写会で登壇されていたが、これみた後だったらもっとテンション上がってたのに!って後悔…。

自分の立ち位置をきちんと認識するための大事な作品と出会いました。
りょう

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