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ディエゴ・マラドーナ 二つの顔のdm10foreverのレビュー・感想・評価

4.8
【天上天下唯我独尊】

やっと・・・・・やっと・・・・やっと来た。
先日もここで書きました「dm10forever」の名前の由来。

「背番号10ディエゴ・マラドーナよ、永遠に(Diego Maradona No10 Forever)」

僕の人生の唯一無二のアイドル「ディエゴ・アルマンド・マラドーナ」。
彼がいなかったら、僕は本当にサッカーをやっていなかったかもしれない。
彼のプレーをがっつり見たのは1986年メキシコW杯が最初。
当事、日本ではサッカーなんてまだまだマイナースポーツ扱いで、こんな世界規模の大会ですらNHKでひっそりダイジェスト版が流される程度。
だから「凄い選手」とは知っていても今みたいに簡単に映像では中々見ることが出来なかった・・・。
でも、そのお陰で当事のNHKの(本物の)実況に触れることができたのは貴重な体験。
(正直、今の民放のアナウンサーは勉強不足にも程がある輩がチラホラ)

今や伝説となった「対イングランド戦」での5人抜き。
NHK山本アナの伝説の名実況が頭の中に蘇る
「さぁ、マラドーナ、ボールを持って前を向く。さぁマラドーナ、仕掛けていく。行くのか?マラドーナ!マラドーナ~!んマ~ラドーナ~~~~!!!!」

友達の家のリビングでこのシーン(ダイジェストだけど)を一緒に見てたんだけど、まるでアステカスタジアムにいるかのような大絶叫でしたね(笑)。
勿論、放送直後はサッカーボールを持って学校のグランドに走って行って速攻で真似をしました(笑)。
背は小さいけど筋骨隆々でミニタンクみたいな体型。
(因みに太ももの太さはピーク時で片足68cmとも言われている!!)
ところが、全身がバネとでも言わんばかりに敵のDFは体に触れることすら出来ない。
もはや彼を止めるには反則覚悟の危険なタックルのみ。
なのに、「ヒョイッ」と事も無げにかわし、いとも簡単に並み居る屈強なDFたちをきりきり舞にしてしまう。

とにかく、彼がボールを持つと何かが起きる。
なんの確証もないのに絶大な期待と高揚感がこみ上げる。
とんでもない勢いで飛んでくるボールを磁石のようにピタリと足元で止め、くるりと相手ゴールの方向を向く瞬間、TVで見ていてもゾクゾクっとくる。
(あ、絶対何かやる!)
ちょっと猫背で、ペコちゃんのように舌をペロっと出しながらドリブルをスタートする。
背後からの凶悪タックルも造作もなくかわしてしまう。いったい彼には何個目がついているんだ?

思えば僕のサッカー人生は常に彼と共にあった気がする。
彼から見れば世界の端っこの何億人の中の一人だけど、それでも確実に彼のプレーに魅了され、自分がプレーする時は常に頭の中に彼の残像があって、まるで自分が世界一のジョカトーレになったかのような錯覚にすら陥る。

90年イタリア大会の時、僕は高校生になっていた。
サッカー部のみんなと「優勝国当てクイズ」で盛り上がった。
「西ドイツだろ!」「いやオランダが来るね」「ソ連も捨てがたい・・」という手堅い予想を尻目に「絶対アルゼンチン!」と鼻息荒く宣言した孤高のdm少年。
「いやいやいやいやいや、絶対ないわ~(笑)」
何故かアルゼンチンというとみんなから半笑いで否定される・・・。
(みてろよ・・・)
そこからは、あれよあれよの快進撃。
準決勝では開催国で優勝候補のイタリアも撃破。
決勝では惜しくも西ドイツのブレーメのPK一発に泣いたが堂々たる準優勝。
特に満身創痍のチームをキャプテンとして一人で鼓舞し引っ張り続けたマラドーナが試合後に人目も憚らずに涙する姿には、こちらまで号泣するほどもらってしまった。

サッカー選手を引退した後(正確にはイタリアのナポリでプレーしていた頃から)、マフィアとの黒い関係を囁かれたり、違法なドラッグに手を出して日本入国禁止になったり、奥さん以外の複数の女性と浮名を流してみたり、報道陣に向けて笑いながらエアガン乱射してみたり・・とヤンチャなイメージが板についてしまった。
なので、最近彼を知った人からすれば「人騒がせな面白いおじさん」程度の印象だと思う。

・・・でも、僕は全部ひっくるめて「マラドーナ」だったんですよね。
もちろん他人に迷惑を掛けることはダメだけど、「やる!・・・やっぱや~めた」っていうのがマラドーナだから許されちゃうというか。

なんか、晩年の彼を見ていると「マラドーナであり続けること」に疲れているのかな・・と感じる場面も少なくなかった。
世界が知る『マラドーナ』という傲慢で豪快で破滅的な孤高の天才。
だけど、実は繊細で臆病でそして人一倍大切な人からの愛情を求めた孤独な男。

まさに「アマデウス」で描かれたモーツァルトのように「神によって与えられた光と影」を具現化した存在だったのかもしれない。
まさに世界中のファンから最も愛され、最も嫌われた前代未聞のスーパースターだった。

・・・だめだ、本作の感想にまで辿り着かない(笑)

本作はいままで世に出ることのなかったプライベート映像満載の貴重な作品。
まさにバルセロナでの苦悩から84年のナポリ移籍で一気に爆発して86年のワールドカップ制覇までを「陽」とするなら、それ以降の彼の人生の転落を「陰」として、くっきりとそのコントラストを描き出している。
ただ単に彼の人生を追っかけるだけの映像の羅列だったら、さほど珍しくもないんだけど、今回構成として上手いと感じたのは、彼を「ディエゴ」と「マラドーナ」という二つの人格に分けて考察しているところ。
え?じゃあ例えばキムタクは「キム」と「タク」ってこと?
違う違う(笑)彼は良くも悪くも「キムタク」だから。

そういうことじゃなく、マラドーナを好きになった人なら「ニュアンス」が分かると思うんだけど、彼に対して親しみを込めて呼ぶ時って、確かに「ディエゴ」っていう事があったのよ。この作品を観るずっと前から。僕もそうだったかも。
でも、トップアスリートで世界一のジョカトーレ(サッカー選手)として彼を表現するとき、決して「ディエゴ」とは呼ばなかった。やっぱり「マラドーナ」って呼んでいた気がする。

優しくて、家族想いで、サッカーが何よりも大好きで、それでいて太陽みたいに明るい少年のような「ディエゴ」。
ブエノスアイレスの貧困街に暮らす一家の希望となった彼が、たった15歳でアルヘンチノスジュニアーズとプロ契約したところから彼の人生は大きく動き出す。

「いつか両親に家をプレゼントしたいんだ。」

彼が生涯愛し続けたのは「家族」。
そしてクラウディア夫人を含め、彼を支え続けてくれたのもまた家族。

しかし、サッカー選手としてどんどん頂点に登り詰めていく彼はいつまでも「純粋な青年」ではいられなかった。
繊細で寂しがりやな「ディエゴ少年」はいつしか「マラドーナ」という破滅的な鋼鉄の鎧を身に纏って世界中のサッカー選手だけでなく彼を取り巻く様々な「好奇の目」とも戦うこととなる・・・。

ここからの転落は本当に観ていて辛かった。
どんどん「ディエゴ」の代わりに「マラドーナ」が全てを背負って潰れていくようで・・。
僕はサッカー選手として「マラドーナ」が好きだった。
でも、人懐っこい笑顔を爆発させながらチームメイトと喜びを分かち合う「ディエゴ」に戻る一瞬も好きだった。
本当に「ディエゴ・マラドーナ」という人間の善悪や功罪も全部ひっくるめて大好きだった。

本作では今まで世に公開されていなかったようなオフショットもふんだんに使われていて、ファンには堪らない映像のオンパレード。
更にはプラティニやシレア、バレージやカレカ、チーロ・フェラーラなど、時代を彩った名選手たちがカメオ出演のようにこれまたふんだんに登場する。
実はユベンティーノ(ユベントスサポ)であるdmですが、マラドーナがいた時代だけは「ナポリっ子」でした(笑)

85年にユベントスがトヨタカップを制して世界一になり(その時の相手は奇しくもマラドーナがプロデビューを飾ったアルヘンチノスジュニアーズ)、89年以降はACミランが「オランダトリオ」を中心にセリエAだけじゃなく世界のサッカーシーンを席巻する黄金期に突入する、本当にその狭間で閃光のように輝いた「SSCナポリ」。
そしてその「閃光」のお陰で、現在でも強豪の一角に挙げられるまでになった。
それは間違いなく「マラドーナ」の偉業であり功績。

はぁ・・・こんなに書いておいてなんだけど、書きたいことの10分の1も書けていない。
でもこれ以上書いても終わりが見えないので、この先は自分のノートにでも吐き出します(笑)

(追伸)
昨年11月26日早朝に世界を駆け巡った「マラドーナ死去」の一報。
時間は経ったけど、やっぱりまだ受け入れられないでいる自分がいる。
彼のプレーを何度も脳内再生してたら、あの当事のままの躍動感溢れるセレステ・イ・ブランコ(水色と白の縦じま)のユニフォームの背中には「10」の2文字が踊る。
このレビューを書いていて、泣いちゃうかな・・なんて思ってたけど、不思議と涙は出てこない。
今まで素敵な魔法を沢山見せてもらったから、むしろ今は感謝の気持ちしかない。
本当に「ありがとう以上の言葉があるなら教えてほしい」という心境。
神様はマラドーナの上にマラドーナを作らず、マラドーナの下にもマラドーナを作らなかった。まさに唯一無二の稀代のスーパースター、ディエゴ・アルマンド・マラドーナ。

奇しくも今日(鑑賞日)は2月10日。
背番号10がよく似合うマラドーナを追悼するにはピッタリの日じゃないか。
今日は、今日だけは感傷に浸ろう。

背番号10よ永遠に・・・・。



(*)昨年のマラドーナ氏逝去に際して、この作品に一度追悼コメントをUpしていました。
その際は沢山の「いいね」やコメントを戴きましてありがとうございました。
今回は作品鑑賞後のレビューとしての再Upになります。
前回書いたものは、あの時の感情そのままなので、あえて今回のコメ欄に残すこととしました。
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