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ドリーミング村上春樹のdojiのレビュー・感想・評価

ドリーミング村上春樹(2017年製作の映画)
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翻訳家のドキュメンタリーとしての流れと、精巧なまでのCGを使った「かえるくん」のストーリーが並行して進行し、ひとつの文章を翻訳していくことで映画は進んでいく。「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」ーーこのたった一文に“完璧な”訳をあてるために、日本への旅などを含むさまざまな対話が繰り広げられていき、一方でかえるくんの戦いは続いていく。

「かえるくん、東京を救う」で描かれるかえるくんの戦いに、どんな意味が込められているのか、正確なところは正直わからないけれど、この映画の作者は、翻訳行為を通して行われるある種の営みのようなものに、その戦いをなぞらえて考えているように感じた。わかりあえなさという前提の上で、異なる言語を用いて著されたことばを、限りなく同じ意味と感覚の翻訳を施すこと、それが憎悪によって膨れ上がった「みみずくん」を倒すための、唯一の方法であるということ。それは、村上春樹がものがたりの中で描いている、世界の底でうごめいているおそろしいものに孤独に対峙していくという行為と、符合するようにも思う。ドキュメンタリーとしては異質だけれど、村上春樹的なモチーフの映画としてとてもいい作品だと思った。
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