ひば

おしえて!ドクター・ルースのひばのレビュー・感想・評価

4.2
生まれた時から自身の身体に向き合わざるを得ずそれは時代が移ろうと責任と孤独が生ずるものなのに、品がないと遠ざけられ誰も教えてくれない。そんな中黙らず今も前進する彼女は消えぬ導火線のようだ。多様性が視角化された時代さえも学びが底を尽きることはない。他人に不寛容な世界は突然自分の息の根を止めるかもしれない。それは戦争かもしれないし性的指向かもしれない。保守的な時代にひっそりとまるで最初から存在しなかったかのように消えていく運命にあった人の心を生かし、「"ノーマル"などないのだ」という言葉は今もなお現代に光を照らし続ける。一人の人間の権利に始まり、妊娠中絶の法に疑問を訴え、偏見に満ちた病を理解する。性に主体性を持つことはコミュニティにとって希望以外のなにものでもないのだから。
ドクタールースは政治と宗教の話はしない。距離が開いてしまうから。悩める人間たちのため息は笑ってしまうものから共感できるものまで様々だ、しかし彼女はどれも真剣に向き合う。見えない彼らは通話ボタンを押すギリギリまで迷い、部屋の隅で膝を抱えた子供であったからでしょう。彼らが助けを乞うたのは政治家でも神でもなく彼女だったのだから。
ドクタールースは女性への幻想を押し留めた聖人のような人物ではない。ユーモアに溢れしなやかで愛情深い人物であるが、ちゃっかりと奔放で貪欲な部分も目立つ。その過去には、選べなかった未来や拭い去ることのできない痛みがある。「話したくないこともある。ホロコーストで両親を失った悲しみはどうにもならないこと」と。過去から目を背けるように行動し続けるという一面が受け取れるのは確かだ。しかし彼女の息子はこう言うのだ、「母は自分の感情から逃げている、そう言うのは簡単だ。だが母は前進し続けたのだ」
私にとって生とは死を待つためのクソ長い苦行の暇潰し以外のなんでもない。私は嫌なことばかり経験したせいで自分の話ができなくなり、あなたには医者が必要と心療内科の先生を紹介してもらったことがあるのでセラピストはとても身近に感じる。私にはとても言えないことを誘導してもらって言えるようになることも大事だけど、時には代行サービスのように誰かに大声で言ってほしいときもある。それは正に"映画"というエンターテイメントであり、いつも背中を押してもらっている。人に自分を共有することは苦手だし期待もしていない、けどもしかしたらその声でどこかの誰かが救われたと思ってくれるかもしれない。秘密主義者であっても語る言葉の一つに何か強烈なメッセージが存在したとわかったなら、きっとこの場で選んだ文章にも意義があるのだと思いたい。命ある限り私もできる限り言葉を残していきたいとそう思う。自分を殺し生まれ持った強者のみが生き残る権利があり見知らぬ相手に非難され終わる人生なんて悲しすぎるもの。夏の終わりに、家を出る元気があったら、作品を選んでボタンを押す元気があったら映画館でこの作品を見てください。人生を疾走するパワーがもらえるかも
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