ひば

PHANTOM/ユリョンと呼ばれたスパイのひばのレビュー・感想・評価

4.3
沈黙が明確な答えになる映画。ユリョン(亡霊)を追い続ける男たちと日本という国。隣の人の手を握る市民たち。韓国が得意な、どこまでいっても市民映画の良作。けっこう変なバランスだなと思うんだけど、キャラ一人一人が先の見えぬ道を"俺は行けるとこまでいくぜ"の気持ちで突き進んでる感じが好ましくも思う。『暗殺』や『密偵』が撮られた2010年代の雰囲気があった。それに加えイハニ×ソダムちゃん渾身のクィア映画としても良い相乗効果があった。タバコ描写苦手なんだけど初めてかっけえなと思った気がする。
ソルギョングって男はこういうときが一番気持ちいいんだ(ホモソーシャルに揉まれきってる)みたいな役ほんとうまくない?イハニの顔になりてえ…とってもきれい…と映るごとに感嘆、ソダムちゃんかっこいい声はかわいい、それにナニョン役のイソムさんがすきなので嬉しかったです。パクヘスの役は日本人俳優さんだったけどコロナの影響で急遽彼になったそうで大変でしたね。明らかに浮いてて軍事に関わりながらも"ノンポリ"姿勢のソヒョヌが「無実の人が死んでもいいのか?」といった問いをする場面がすごくキャラに好感がもてたな。本人の善かもしれないし、とにかくこの時代をやり過ごそうとする自分本意かもしれないし。一番日本人に近いんじゃない。
韓国の国民性なのかはわからないけど、致し方なく敵に従った人にも厳しいよね。日本占領下作品ですごく思う。独立を遮るものは同じ国民であろうと全部なぎ倒すというか。韓国で『RRR』つくったらラーマ死にそう。朝鮮半島にも日本を強制され名前も変えさせられ日本語を喋らざるをえなかった人たちがたくさんいたんだろう。日本占領下の国々で政治や軍の職についてる人が日本人だけってことは絶対ないし。だから韓国の俳優さん自身の日本語がとっても上手でもそうでなくともどちらにせよ思う節はあります。日中、太平洋戦争が終わっても朝鮮戦争が待っているし朝鮮半島は分断されたままの現在を思えば、日本が何をし何を招いたかを忘れずにいることが双方に大切なことと受け取っています。『マルモイ』だったか、子供が皇民化に馴染んで朝鮮のアイデンティティを捨てようとしない親世代を疎む描写があったんだけど、今作もそれどういう気持ちで言ったんだろうと思ったシーンも多々あった。最近だと『オッペンハイマー』で自分の本心と国民が望むことが完全に解離してて多くが望む言葉が無意識のように口から出ちゃうシーンがあったけど、それとはまた別の…『黒い皮膚・白い仮面』のような…(名著106 『黒い皮膚・白い仮面』 https://www.nhk.or.jp/meicho/famousbook/106_fanon/index.html)
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