デデデおおきみ

犬王のデデデおおきみのネタバレレビュー・内容・結末

犬王(2021年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

原作の「平家物語 犬王の巻」及びアニメ版「平家物語」を見ていない状態で鑑賞。

年上の知人が「まあまあでした、ロックがもう少しそれっぽければもっと良かった」と仰っていたものの、事前に観ていた「鯨」の歌の一部映像が非常に良かったのと、笛?の監修の方の肩書きが凄いと朧気に聞き、また「絶対に音響の良い劇場で見るべき」との口コミがあったので、音楽にかなり期待していた。

鯨の歌のコブシと、帝の前で献上した歌の一節(うろ覚え:「大海の底に届くのは歌のみ」)が非常に良かった。

だが、歌(特に友有)がどこか単調なのが辛かった。単にフレーズが同じこと自体は、伝播するコーラスの仕掛けの為に有効な表現であることは分かるのだが、それでも犬王の歌唱には聞かせる力を感じた。
重ねて犬王の曲は物語なのでわりあい飽きずに入ってくるのに対して、友有は宣伝文句でそれなりに内容が重複するのもあり、友有の曲中やや飽きが来ていたので、字幕を出して貰えたことでやや気が紛れて有難かった。

琵琶法師より舞手の方が歌が上手く感じたのは寂しかった。

歌唱シーンの絵については、事前の口コミでは曲弾きやロックパフォーマンス的要素が取り沙汰されていたが、個人的には「ただ楽しそうに聴く聴衆」ではなく「熱狂する京の人々」の様子が描かれているようだったのが良かった。
犬王の如く踊るかたわ(敢えて使います)の老若男、不気味にも見える執念を感じる目で人垣の隙間から覗く女性、餓えた人、橋から落ちる聴衆、美しい絵面に整えなかった点が好きだった。

同様に、化粧をし女物の着物を羽織る友有も姿を取り戻した犬王も絶世の優男でないのが良かった。友有の歯並びのがたつきに最初に気付いた時は、作画コストは上がるだろうに、と唸ってしまった。観阿弥の美貌を称える上でも、現代人が「ああ、確かに綺麗な面だ」と思える顔と当時の美しい面とのバランスが非常に良かったと思う。

友有の歯のように、画面の情報量が多いのが素晴らしい。ただ、カメラが高速で動く時、それらにピントが合わないのが「リアルだな」と感じると同時にわりとストレスだった。犬王か友有の視点の再現の意図もあるのかもしれないし、私たちの臨場感没入感にも影響するのかもしれないが、ぼやけている時間が長いのとその画面に見たいものが沢山あるのとでもどかしい気持ちがした。


ストーリーとしては、原作完全準拠なら映画へ寄せる感想でも無いかもしれないが、わりとありきたりというか、欲しい展開が妥当な流れで来たな、という様子だったので、「映画『犬王』を是非見てくれ」とは言わないかなといったところ。
別の物語でも味わえる感覚と主張な感じ。
でもまとまりは良いし立場や舞台といった設定が独特なので、そちらを楽しみの主眼に置くといいと思う。

にしても…谷一は殺す必要あっただろうか、殺された瞬間かなり衝撃を受けたが、やや現実に戻り「ただただこちらの感情を揺さぶるために殺されなかったか…?まあでも流れ的に谷一か定一は殺すか…」という微妙な気持ちになった。同じ無害な犠牲者枠でも、最近は年寄りが動物や子供に比べて軽率に殺されやすいなと感じる。