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生きるのKUBOのレビュー・感想・評価

生きる(1952年製作の映画)
3.8
イギリスでリメイクされる黒澤明監督作品『生きる』を鑑賞。

黒澤明作品はほとんど見てたんだけど、この作品を見ていなかったのは、時代劇でもないし、単純につまらなそうだったから(笑)。

でも、若い頃に見てたらそう思ってたかもしれないし、今見てよかったかも。

主人公の渡辺さん(志村喬)は病院で「軽い胃潰瘍」と言われるが、その実、余命半年の胃がんだった。

昭和27年、この当時の癌の宣告は死刑の宣告と同じ。だからこそ、この当時は本人へは告知しなかった。

憔悴しきった志村喬の演技が怖いくらいなんだが、公開当時、志村喬は47歳! 伊藤英明と同じ歳! 福山雅治より歳下だ! 当時の日本人の老け方は今とは全く違うな。

「(家が)40〜50万もあれば建つ」!
「公務員の退職金が60〜70万」

台詞から当時の物価がわかるのも興味深い。

「60歳で定年退職」は1998年から。それ以前は55歳定年だったらしい。(65にも見えるけど、47歳の志村喬が定年間近という役も変だなと思ってググってみた豆知識です)

胃がんと宣告された(思い込んだ)日から、それまで役所でミイラと揶揄されていた渡辺さんが「生き」始める。

伊藤雄之助演じる小説家と、今まで行ったことのなかったパチンコやキャバレーで遊ぶがひとつも楽しくない。

役所の若い女子職員とお汁粉屋に行ったり、映画に行ったり…

これは『最高の人生の見つけ方』になるのかな(逆か)と思いきや、人生最後のやりがいが「仕事」になるところが、戦後の日本らしい。

143分という長尺の内、最後の三分の一を、通夜の場で渡辺さんを振り返るワンシチュエーションの演出にしたのもおもしろい(ただ、少し長いが)。

渡辺さんの人生だけでなく、冒頭の伏線だった「役所の縦割り仕事」への批判がテーマのかなりの部分を占めるのも、戦後日本の実情を反映していて興味深い。

雪の中、ブランコに乗っていた渡辺さんは、最後に「生きた」証を残せて幸せだったのだろうなぁ。

さて、舞台をイギリスに移し、カズオ・イシグロの脚本でビル・ナイが演じる『生きる』はどんな映画になるのかなあ? 楽しみだ。
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