takato

生きるのtakatoのレビュー・感想・評価

生きる(1952年製作の映画)
4.9
オールタイムベスト 7位

 可笑しい、せつない、悲しい、愛おしい、なんと色んな味わいに満ちた傑作だろうか!。「この男は時間を潰しているだけである。故にこの男は生きていない。つまり死んでいるのも同然なのだ。」この斬って捨てるようで、どこか可笑しいナレーションから始まる本作。絵に描かれたような役所のたらい回しの図や、当人には大真面目だけどどこか笑いになっている数々の場面。息子に呼ばれていそいそと向かってみたら、戸締りしといて冷たく告げられるシーンからの愕然としている主人公のカットに映るタイミングの上手さ。悲しいのに思わず可笑しみを感じさせられしまう。巨匠と言われると堅苦しいイメージがあるかもしれないが、黒澤さんは本当にユーモアのセンスがある人だ。

 志村僑さんの演技の見事さは今更言うまでもないだろうが、是非言わせて頂きたい。「七人の侍」の勘兵衛、「ゴジラ」の山根博士と同じ人物とは思えないくらい言葉、表情、発声、仕草の全てがひたすら真面目といえば聞こえはいいが、本当は自分の人生を生きることなく、ただただ摩耗しきってしまった男の悲しさと切なさを表現している。これぞ演技!。

 それにしても本作の感動的である所以は、正に主人公の取るに足らなさにこそある。力のある特別な人が、特別な事をする話ではない。取るに足らない男が、取るに足らないようなちっぽけな事を成し遂げたに過ぎない。だが、真に人の心を動かすのは事の大小ではないし、自分とは関係ないような特別な人の物語ではない。取るに足らない人間だろうと自らの使命を見出し、そこに責任と義務を感じて精一杯生ききれるかどうかである。人間は必ず死ぬし、世界は闇である。だからどうした!、それでも俺はやる!という生き様こそ時代を超えて響くメッセージではなかろうか。
takato

takato