よ

生きるのよのネタバレレビュー・内容・結末

生きる(1952年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

今まで見てきた中で黒澤明は人間社会での「正義」とは「悪」とは、という事を大なり小なりテーマにして描いてきたように感じるが(羅生門はそのテーマでの最高傑作だと思う)、この映画は今までとは異質に感じた。

現代社会において「生きている」ということはどういう事なのか、黒澤明の「死生観」が存分に反映されているように感じる。黒澤明の映画での本質的な人間の問題に対する深い洞察力には毎回驚く。

昔の映画だとは思えないくらい楽しめた。
無駄なものが一切なく研ぎ澄まされていた。羅生門で展開された様々な視点からのストーリー進行も存分に発揮されていて、黒澤明お得意のエンターテイメントもバッチリ。とくに今回の映画は演出の素晴らしさ、構成の素晴らしさが際立っていた。

個人的に大好きな黒澤映画の常連、志村喬は流石の演技力。台詞の少ない役を多彩な表情で演じている。気になったのは黒澤映画の他の常連組(三船敏郎や千石規子とか)があまりいなかったのも印象的だった。それだけ志村喬の演技にフォーカスされていて志村喬が好きな自分にとっては嬉しい限り。

映画を見終わった後に「生きる」という事を考えずにはいられない。最後の瞬間にどんな感情だったのかは最後まで語られず、代わりに渡辺がゴンドラの唄を歌うシーンの演出、構成が素晴らしかった。
渡辺は最後の時に、ブランコの上で何を思ったのだろう。考えずにはいられない。

見終わった後に、僕の大好きなエッセイである池波正太郎の「男の作法」に書かれていた「自分が死ぬという事を若いうちから考えないといけない。考えるというより、ただ漠然と思っているというだけで生き方は違ってくるんだよ」という言葉を思い出した。

他にも色々と思うところはたくさんあるけど、とにかく定期的に観て、生きることについて考えたくなる大傑作でした。
よ