回想シーンでご飯3杯いける

最初の晩餐の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

最初の晩餐(2019年製作の映画)
4.2
自分は何の為にFilmarksをやっているんだろう?と問い直す。それは結局「良い映画に出会いたいから」に尽きると思う。レビューを書いたり「いいね」のやり取りをするのは、あくまで好みの近い人と繋がるための下地作りという位置付けだ。

この「最初の晩餐」のように良質でありながら陽の目を見る機会が少ない映画に出会えるのは、Filmarksの、というか、フォローしている皆さんのおかげ。と同時に、シリーズ物や原作物ばかりが持てはやされ、本作のような良作が評価されない風潮に腹立たしさを感じたりもして、だからこうやってプッシュすべくレビューを書いて、それが新しいフォロワーさんと繋がるきっかけになっていく。

本作「最初の晩餐」は、父親の通夜~葬儀が舞台。父の遺言に沿って振舞われる手料理の数々から、家族の思い出や、家族も知らなかった秘密が明かされていく。手法的には黒澤明の「生きる」に近く、家族が集まる夜に台風が上陸するストーリーは是枝裕和の「海よりもまだ深く」をはじめ、いくつかの作品を思い起こさせる。

それらの作品に対する敬意を感じさせつつ、本作がユニークなのは、「生前の父親が家族のために作った料理」が振舞われること。この家庭には母親がいるので、通常は彼女が料理を作っているはずなのだが、子連れ再婚という事情があり、父親が料理を作らなければならなかった場面や、家族の一部が不在となった食事があり、そこに一家が知り得なかった事実が隠されている。通夜の食事シーンと回想シーンを巧みに紡ぎ合わせながら、まるでパズルのようにその全貌が明らかになって行く構成が見事だ。

通夜シーン、回想シーンを通じ、俳優の演技も印象的で、特に窪塚洋介と永瀬正敏の、口数よりも佇まいで語る存在感が凄い。近年の邦画で、売れっ子と言うわけではないけれど、出演作では必ず強い印象を残す貴重な存在である。

パズルの構成が緻密すぎて、あれ?編集ミス?と思える"抜け"があるように思えたのが残念であったが、「生きる」同様、何度も繰り返し観たくなる作品になるだろう。これが原作を持たないオリジナル作品である点も嬉しい。