8骨8

映画ドラえもん のび太の新恐竜の8骨8のネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

ドラえもんの長編の感想書くの初めてですね。
ドラえもんの長編ってディズニーとかと同じで子供向けだと思って舐めてると結構マジでおもしろいんですよね。
今回の新恐竜もかなりおもしろかったです。
ただ、今回はリメイクというよりあらすじが同じのほぼ完全新作なので、あの”のび太の恐竜”を観たかった人はちょっとびっくりするかも。
実際、作画のクオリティも2006の時点でひとつの究極の到達点にすでに達していたと思うので、同じキャストでさらにもう一度リメイクっていう必要はないと個人的に思うので、これで良かったと思います。

今回は根本的なストーリーの書き直しに伴って、物語の根幹をなすテーマにも大きな変化がありました。最も大きなスタンスの変化は、”歴史への干渉についての是非”にあると思います。今までののび太の恐竜は、歴史に干渉することはできない、してはいけないというテーマとなっていました。そのため、物語上敵となる存在は、過去の世界で恐竜を乱獲し売りさばく恐竜ハンター、すなわち、”歴史を揺るがし得る因子”こそが敵でした。しかし、今回は、人間や恐竜に敵味方の区別はなく、地球の歴史上の大事件(巨大隕石の衝突とそれによる環境の激変)そのものが巨大な敵として立ちはだかります。そして、ある意味主人公たちが”歴史を揺るがし得る因子”へと積極的に成り代わって、一部の恐竜たちを守ることで最終的に現在の地球を救うという物語になっています。このテーマの転換はかなり大きな風潮の変化だといえます。「歴史は変えられない、変わらないもの」から「歴史はかわるもの」になったのです。しかも、平凡な少年たちの積極的な行動によってその偉業をなしとげるという現代的な物語になっています。現代の社会の状況からみると、経済や教育などの格差とその固定化が際立っています。このままで放っておけばいつか滅びることが目に見えている、その中で、こういった世界の状況は具体的な行動で変えられるというテーマの物語を子供向け作品でやるというのはとても有意義なことで、現代に必要な作品としてアップデートされていると思います(実際にのび太たちが行った歴史改変行為(?)についての是非はおいておいて)。

「のび太の新恐竜」というタイトル、一応あらすじにも載っているので言ってしまうと、”のび太の恐竜の令和版”という意味と、”新種の恐竜”という意味、そして、”リメイクとみせかけて全くの新作”という複雑なミーニングとなっています。これ自体洒落が効いてておもしろいですね。
今回のび太が発見するのは、フタバスズキリュウのピー助ではなく、新種の恐竜(ドロマエオサウルス類っぽい)、しかも双子のキューとミューです。フタバスズキリュウだった頃は日本にも恐竜がいるっていうロマンとのび太が自力で恐竜を発見できたというリアリティが先行した設定でしたが、今回はすでに日本で恐竜の化石が多く見つかっていることから、日本から恐竜時代の古生物研究の最先端を担う発見がなされるっていうロマンと平凡な少年(?)である主人公ののび太たちが地球の歴史をつくるっていうドラマが先行した設定に変更されましたね。恐竜博物館みたいなところでたまたま落ちていた石が卵丸ごとの化石で、しかも、双子で、しかも、後の鳥類につながるミッシングリンクとなる個体そのものである(と、劇中の登場人物が考える)という設定になっているので、物語としてのリアリティは完全に吹き飛びました(笑)

リアリティについては他にも色々感想がありまして、ジュラシックワールドでも同じことを思いましたが、現在のところ、ティラノサウルスをはじめとする獣脚類恐竜の中の多くの種が羽毛を獲得していたらしいことが最近の研究でわかってきているので、そろそろそれを全面的に反映した恐竜映画をメジャーどころで作ってほしいと思いますね。褒めどころだと、この映画では現在(?スネ夫がおもちゃとしてビデオカメラを持っているあたり現在らしい一方で、なぜか昭和の代名詞ともいえる豆腐屋も登場する)と、ジュラ紀、白亜紀の3つの時代が登場しますが、それぞれの時代で植生や”恐竜の系譜となる生物”が異なることを上手に演出しています。特に、いやにリアルに緻密に描かれた鳥類がほとんど恐竜に見えるという演出がおもしろいです。同時に恐竜などの原型となるトカゲ(型の形質を色濃く残した子孫)を並列させて描くのも面白いです。もうひとつ褒めどころでいえば、冒険の途中で様々な地形に出会いますが、それがリアルに描かれることで物語終盤に発覚するジオラマセットのいかにも人工的な地形が不自然であることが浮きだって見える演出もうまいです。超巨大な「のびのび犬」には笑いました。

また、今作では歴史を変えるというテーマとは別に、コンプレックスの克服と昇華というテーマが盛り込まれてます。これも、個性の多様化が叫ばれる現代に合ったテーマですね。双子の新恐竜キューとミューのうち、キューは生まれつきミューよりも体が小さく、偏食気味で、滑空する翼や姿勢制御を行うであろう尾も短いという特徴を持っています。そのため、ミューの方が運動能力が高く、キューは落ちこぼれのように見えます。(実際、運動能力では落ちこぼれですが、情緒がミューよりも複雑であったり、ビビり=危機感知能力が高いなど、知性面では実はキューの方が高くみえる)しかし、キューはそれらのコンプレックスをのび太を救うために本気を出したとき、正攻法ではない方法で乗り越えます。しかも、それがのちの歴史を大きく変えることになります。(恐らく、滑空で飛べなかった原因は、翼の大きさに加え、羽ばたきに使う胸筋などの筋量による体重過多だったのかもしれません。)コンプレックスだった個性は利用法によっては強力な武器になりうるのです。これは老若男女誰にでも当てはまるテーマですよね。もはやわかりやすくてベタベタではありますが、つくりがちゃんとしているのでやはり感動しますね。

また、今回目立ったのがひみつ道具の多さですね。今までののび太の恐竜では、ひみつ道具をいくらでも使える条件だとあまりにも簡単に目的が達成できてしまって冒険もくそもなくなるので、恐竜ハンターに襲撃されたために亜空間にひみつ道具を落としてきたせいで限られた道具でサバイバルしながら長距離を移動するという冒険になっていましたが、今回は新種の恐竜をもといた場所に返すミッション、目的地自体が不明という条件のミッションなために、ひみつ道具を使ってもまぁまぁの難易度があるのと、先ほど述べた通り敵役が登場しないので、ひみつ道具をガンガン使います。限られたひみつ道具で冒険するのも旅情があって良かったものですが、今回のようにおもしろいアイデアが詰まったひみつ道具が次から次へと登場すると、ドラえもんを観てるって感じがしていいですね。個人的に一番欲しいのは「ここどこバンダナ」ですね。アイデアがおもしろい。どうやってマッピングしてるんでしょうね。わからないけど、すごい。キャンピングセットとして出てくるバルーンはおもしろいけど、個人的に旧作のキャンピングカプセルの方が好きです。バルーンは防音クソすぎるし。

あと、気になったのはしずかちゃんのパンチラ、エロシーンが作品を追うごとに減っているのがおもしろいですね原作はもう始終パンモロしてたのが、2006はパンチラくらいに収まって、今回はパンチラかなり少なめになりましたね。でも風呂シーンはあるという。かなりヤバめのエロシーンとして、水着に着替える際に着せ替えカメラの順番を間違えてしずかちゃんの裸の上半身が露になるシーンが2006まではあったものが今回なくなってましたね。まぁそりゃそうだろって話ですよね。女子小学生の裸がそんなにたくさん出てくる映画今時異常ですよね。しずかちゃんの裸が観たい小学生男子諸君は、2006の視聴をお勧めします。ハイクオリティ作画でのエロシーンが多めに味わえます。

まぁあと細かいところでいえば、スネ夫とジャイアンの掛け合いがおもしろくて良かったですね。「ジャイアンの方がおいしい!」「それが友達にすることか!!」って言いながら、ジャイアンはスネ夫のことを絶対に離さないところに友情とジャイアンの漢気を感じます。あと、ピー助オマージュとしてフタバスズキリュウが登場するのがファンとしてはうれしいところですが、のび太とボール遊びする回想が入るのはさすがにやり過ぎかなと思います。おっさん向けサービスはスターウォーズでお腹いっぱいです。

全体を通して結論を述べると、のび太の恐竜という揺るぎない名作をリメイクするという難題に対して、前作の2006はハイクオリティ作画と新キャストという武器があった中、今回はキャストに変更もなく、作画のクオリティも前作でもはや到達点に達しているという厳しい状況で、ストーリーを大幅に変更するというかなり挑戦的な内容にした上で、ちゃんとそれをやり切っておもしろい作品を作ったと思います。令和初の映画作品として堂々といいスタートを切れたのではないでしょうか。
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