りょう

劇場のりょうのネタバレレビュー・内容・結末

劇場(2020年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

上手く言えないのですが、怖れていたような「ダサい」映画では全然なくて、繊細でした。

よくある題材や設定です。『劇場』というような漢字熟語の題名だし、ポスターを見ると、どうやらダメ男の話らしい。そうすると、無垢な女性がダメ男にハマって一緒に堕ちていく昭和な映画かしら、と警戒してしまいました。

まあ、でも、山崎賢人くんと松岡茉優さんと伊藤沙莉さんが出るんだったら、変な映画でもそれなりに楽しめるだろう、評判もすごぶる良いし . . . といういい加減な気持ちで見ました。

そしたら、とても良かった。

山崎くんは身勝手で嫌(いや)なやつですが、自分の才能の足りなさに見切りを付け別の居場所を探すことに踏ん切れないため、松岡さんの承認にすがってしまう可哀相な人。自分がそういう可哀相な人であることを認めつつ生きるのは辛いでしょう。松岡さんが出ていってしまうのを、それが良いと認めて行かせるのは、完全に悪い人間ではない証拠ですよね。

この人物を、マッチョ・自己中・泥酔・暴力男として描かなかったのは、現代的で良いと思います。繊細でウジウジした、実際にいそうな人物です。

松岡さんもよく分かるキャラでした。女優になれるかなと思って東京に出てきたらそう甘くはなかった。今度は服飾学校に通ってファッション業界に . . . なんて思ったけど、それもそんなにキラキラしたものではなかった。アパレルの店員もきらびやかではなかった。山崎くんに会わなかったらとっくに田舎に帰っていた、と本人が言ってましたが、本当にそうですよね。

山崎くんに合って本当に楽しかったんでしょうね。それに、すごい人を支えるという「居場所」も見つかったような気がした。そういう意味で、松岡さんも山崎くんに依存していた。それが不健全な依存であることに薄々気付きながら、なかなか切り捨てる踏ん切りが付かなかった。それがなくなったら自分には何もなくなることが分かっていたから。

松岡さんは凄いです。泣きそうな引きつった笑顔とか、見ていて切なかった。

伊藤沙莉さんは、常識人として、駄目になる二人を、見捨てずに陰ながら支援していて偉い。

追記: 原作小説を読んでみました。映画はかなり小説に忠実でしたが、小説はひたすら永田の独白で、紗希がどうい人物かほとんど分かりません。映画では、特に筋を付け加えた訳ではないのに、画面や台詞で紗希を丁寧に描いていました。御蔭で見応えのある映画になっていました。一方、小説では、永田がかなり知的で、そこそこ才能のある人物であることがよく分かります。演劇論も面白い。映画ではそこが伝わらなかったので、どうして永田が全く堕落した寄生人間になっていないのかが不思議でした . . . ということは、もう一回映画を観ると良さそうですね!
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