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メクトーブ,マイ・ラブのakrutmのレビュー・感想・評価

メクトーブ,マイ・ラブ(2017年製作の映画)
3.5
南仏の港町セットを舞台に、ヴァカンスを楽しむ若者たちのひと夏の日々や恋愛を描いた、アブデラティフ・ケシシュ監督の青春ドラマ映画。仏作家のフランソワ・ベゴドーによる小説『La Blessure, la vraie』を原作として大幅な翻案をしている。

『アデル、ブルーは熱い色』や『クスクス粒の秘密』がとても好きな映画ということもあって、JAIHO に入会して本作を見たのだが、かなりの期待外れだった。もともと二部作か三部作の第1作として製作されていることもあって仕方ない部分もあるが、3時間の壮大なイントロを見せられている気分になった。話がほとんど展開しないままに、海水浴をしたり、クラブで踊ったりするヴァカンス中の若者たちを只々映している映像は、正直言って飽きがくる。

もちろんストーリーがなくても素晴らしい映画はたくさんあるし、演技っぽくない演技によるリアリティあふれる映像は『クスクス粒〜』や『アデル〜』にも共通するケシシュ監督の演出方法である。それでも、リアリティを追求するあまりに、演技に感情の起伏が欠けていて、そのせいで琴線に触れないのかもしれない。特に、続編に向けた意図的な演出なのかもしれないが、主人公であるアミンとオフェリエの心情があまり伝わってこない。例えば、アミンを女性にとても消極的な男性として描いているのだが、それが内気な性格によるものなのか、オフェリエをひそかに想う気持ちからなのかが上手く表現されていないように見える。さらに、ヒロイン役であるオフェリエを演じているオフェリエ・ボーがあまり魅力的ではないのもマイナスポイント。ケシシュ監督のぽっちゃり好きはわかるんだけど、迫力あり過ぎる体格はデブの領域だろう。でもシーンによってはデブ領域に入っていないようにも見えるので、もしかすると撮影中に体型が変わったのかも。

まあ、本作の適切な評価は続編『Mektoub, My Love: Intermezzo』を見てからすべきなのかもしれないが、残念ながら続編は第72回(2019年)カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映されただけで、劇場公開の目途は未だに立っていない。その原因として、13分にも渡る、演技ではない(つまり実際にヤッている)オーラル・セックス(クンニリングス)シーンがいろいろと物議を醸しているらしい。そのシーン自体がミソジニー(女性蔑視)に当たるという批判とともに、オーラル・セックスをされた側のオフェリエ・ボーがカンヌで公開する前にその映像をチェックさせてほしいと監督に要求していたが一切見せてもらえなかった(これが原因で、オフェリエ・ボーはカンヌ国際映画祭のレッドカーペットに立っただけで、それ以降のイベントはすべて欠席した)とか、さらにはそのシーンの撮影時に監督による強制があったのではないかなどと、いろいろな問題が指摘されている。それでもフランスの映画関係のサイトなどを見ると、ケシシュ監督は公開を諦めていないようで、カンヌで公開した作品を大幅に再編集して『Canto Due』、『Canto Tre』の2作として公開する(問題のセックスシーンは1分程度になるとか)予定だと答えているみたい。

『アデル、ブルーは熱い色』でも過激な性描写が問題になったみたいだし、(本音か冗談かはわからないが)レア・セドゥは二度とケシシュ監督の映画には出たくないとインタビューに答えていたような気がする。いずれにしても、この監督の撮影方法には強制的な部分があるように思えることを考えると、この時代にあって今後の新作は期待できないのかもしれない。
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