ぽん

ルース・エドガーのぽんのネタバレレビュー・内容・結末

ルース・エドガー(2019年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

とても面白い心理劇だった。
タイトルロールを演じるケルヴィン・ハリソン・Jrが魅力的でしたね。「私に近い6人の他人」(1993)のウィル・スミスを思い出した。見た目の爽やかさとスマートな話術で大人たちを騙して手玉にとる青年。
さて、本作のルースも家族や教師たちをダマしていたのだろうか?

登場人物のそれぞれに信念や良心があり、抱えている思いや悩みもある。ここには完全な善人も完全な悪人もいない。当然と言えば当然だが、人はみな白黒ハッキリ出来ないグレーの部分を持っている。本作はそのグレーをグレーのままに表わしているのが良いです。それが人間だから。

人は見るもの聞くものみな自分の心の投影、と言った心理療法家がいたが、疑心暗鬼になると人の心は暴走してしまう。どちらかと言えば大人たちの方が感情的で動揺が激しく、高校生のルースの方が冷静で狡猾にすら見える。この辺りのパワーゲームが見応えがあり引き込まれた。

また、同じアフリカ系と一括りにはできない個々人の信条、立場、思想があり、そういうグラデーションをきっちりと描いてみせていたのが、本作の秀逸な点だと思う。BLM運動だって対立があるからこその一枚岩で、本質はもっと複雑なハズだ。ルースの友人が、大麻で警察沙汰になった同級生のことを「あいつは“いわゆる黒人”(black black)だから」と言うのが印象的だった。

どんな人にも黒から白までのグレースケールがある。光と闇がその時々で強くなったり弱くなったり、織りなし結ばれる像が一人の人間として表出する。それは恒久的でも固定的でもなく、常に変化しているものだと思う。この映画の中で様々なルースの姿を見せられながら、どれもがルースなんだろうな、と思った。表も裏もないのかもしれない。

刻々と変化する登場人物の心理を、落ち着いた色彩の画面が支えているのも良かった。
とても好きな作品です。
ぽん

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