k

hisのkのレビュー・感想・評価

his(2020年製作の映画)
5.0
私は藤原季節さんが演じた 渚になりたい。

"迅がいなきゃ生きていけない"
誰かのこんな言葉を、ここまで信じたのは初めてで。
だって渚はもう、迅じゃなきゃ意味がないじゃない。私はズルズルに泣きながら純粋にそう思った。
何でこんなに説得力があるんだろう。私は2人が出会ってから別れるまでを描いたドラマをみていないのに。
お願い迅、もう一度渚を受け入れて。誰かのために懇願することももう、全然なかったのに。
机を乗り越えて求めた身体にかじかんだ赤い手。心の熱が呼応する瞬間。

瞳の全てが愛だった。

でも私は、この瞳を体感することは一生ない。私は女で、彼らは男だから。
同性だからこその、愛がある。
異性だからこその愛とは違うけど、違わない。愛は愛で、それだけ。

観ているだけで、スクリーンに映る誰も、他人じゃなかった。
お鍋の温かさが手に取るようにわかったし、ピシッと澄み渡る川辺の空気も感じることが出来た。
白川町という町が、私をグッと抱きしめる。
私はこの町を知っている、そんな気持ちにさせてもらえた。
"この歳になったら男も女も関係ないけ、どっちでもええわ!"

温かい町が、故郷であって欲しい。
優しい人が、世界を優しくする。

心を開ける人による"好きに生きたらええ"の力。
血の通った言葉をちゃんと伝え合う。現代に必要なこと。
なんでこんなに難しいんだろう。

"お前ってゲイなの?"
何故バカにしたような言い方で、からかうような言い方で…。居酒屋でのシーンは、めちゃくちゃリアルで嫌だった。
ガツンと殴られるような衝撃が、重い。その場で反応出来ないことも多い。
悔しい。

偏見や差別は根深い。

子どもを巡って争うことがいかに苦しいことなのか、殺風景な裁判所で少し体感出来る。
勝つために徹底的に相手を打ち負かすことが、こんなに悲しいなんて。
女性として、キャリアも子どもも捨てたくないだけ。男性として、愛する男性と一緒に生きていきたいだけ。
逃げてばかりいた渚が唯一逃げられなかった空の存在、とパンフレットに書いてあって、渚の選択に何度も涙する。

渚になりたい。

何度も頭に浮かぶ言葉。

思い出す、"マモちゃんになりたい。"

今泉力哉監督に、やられた気分だ。
わからないことをわからないまま、完成させる強さに感謝します。
ラストの奇跡は、彼だから引き寄せられたんじゃないかと思う。
優しかった。監督の眼差しを想像する。
間違いか正解かじゃなくて、関係性。
そこに愛があるかどうか。

この映画がたくさんの人の元に届きますように。
k

k