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シン・ウルトラマンのnetfilmsのレビュー・感想・評価

シン・ウルトラマン(2022年製作の映画)
3.8
 怪獣を禍威獣と名付けたあたりにほうほうそう来たかと胸の高鳴りが止まらない。次々と巨大生物が押し寄せ、もはやそれが事件ではなく日常となった日本。禍威獣たちもどういうわけか日本以外には襲来しない。自衛隊の装備やアメリカから買い付けた通常兵器が全く役に立たず、限界を迎えた日本政府は、禍威獣対策のスペシャリストを集結し、禍威獣特設対策室通称「禍特対(カトクタイ)」を設立。班長に田村君男(西島秀俊)、作戦立案担当官・神永新二(斎藤工)、非粒子物理学者・滝明久(有岡大貴)、汎用生物学者・船縁由美(早見あかり)がメンバーに選ばれ、任務にあたる。冒頭の数々の秀逸なロゴにも胸躍るが、中でも『シン・ゴジラ』の文字がひたすら目に付く。庵野秀明×樋口真嗣コンビの新作はウルトラマンの令和版でありながら、完全に『シン・ゴジラ』以降の地続きの世界だ。日本政府は慌てふためくばかりで、やがて登場した神様に近いウルトラマンに縋ろうとする。禍特対のやりとりは正に言葉の応酬で俳優陣はなかなか大変だったろうが、『シン・ゴジラ』のようなテロップの情報量やエキストラの大量出演はない。禍特対の場面のリバース・ショットは色々と構図もおかしくて痺れた。この手の映画には絶対に出演する嶋田久作が念願の総理大臣に昇進しているのも驚いた(昔は帝都大戦もあった)。カラー・タイマーなしの判断は賛否両論ありそうだが、私の意見としては違和感はそれほどなかった印象だ。

 代わりに在るのは庵野秀明の過剰な初代ウルトラマン愛だろう。逃げ遅れ、取り残された小学生を助けようと森の中に分け入った禍特対の神永が爆風で再誕する辺りが忠実に再現されるのだが、残酷さは微塵もない。チームに遅れて加入した分析官・浅見弘子(長澤まさみ)の登場から物語は動き始め、外星人やウルトラマン抹殺計画など物語の核となる人間ドラマが幕を開ける。ザラブ星人の登場という斜め上行く色彩の投入に庵野秀明の本気度の高さが伺える。核兵器よりも禍々しきウルトラマンの登場は救世主誕生を予感させるが、政府はそれだけに頼りすぎ、リスクヘッジしようとしない。その脆弱さを外星人たちに突かれ、我々人間の心の弱さを映し出すのだ。とはいえザラブ星人に重ねるように登場したメフィラス星人の描写は流石に脱線し過ぎの感も否めない。五木ひろしの『小鳥』(小松左京の日本沈没!!)がかかる居酒屋での描写とか完全に庵野秀明の想いが溢れ出したとち狂った演出で、子供たちは呆気に取られるに違いない。Big浅見弘子もアイデアそのものは悪くないのだけど、正調なウルトラマンとしてはやや歪に見えたのも偽らざる思いだ。クライマックスのあれの流入も時期が時期だけにどうしたって比較せざるを得ないのだが、随分あっさりしていたのも気になった。とはいえ岡本喜八ネタやウルトラマンの口元の描写に庵野秀明の芸の細かさを見た。ラストの『シン・ゴジラ』の赤坂との血続きの描写が、庵野秀明からの「マルチ・バース」への現時点での返答なのだろう。
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