ユーライ

シン・ウルトラマンのユーライのレビュー・感想・評価

シン・ウルトラマン(2022年製作の映画)
3.8
庵野秀明ではなく樋口真嗣の映画。物議を醸した実写版『進撃の巨人』から七年を経たが、良くも悪くも全く変わっていない。『シン・ゴジラ』と同様やたらと監督が多い中、どの程度の裁量が割り当てられているのか不明だが、監督のクレジットから庵野が抜けるだけでここまで変わってしまう。表面上は所謂実相時アングルや細かいカット割り、字幕の挿入などでスタイルは継続されているように見えるが、編集では誤魔化されない樋口真嗣の悪癖がだだ漏れになっている。リブートとして原点を踏襲した明朗を掲げている癖に、脂っこい下心を混ぜ合わせるのは何でだ。童心に帰りたい時にそんなセコい悪意は一番見たくない。キャッチコピーに「人間」が入っているにも関わらず、人間が描けていない。これは演出以前に脚本の問題もあって、人類の危機だというのに世界観が妙に閉じている。TVシリーズの総集編のような印象もあるが、ウルトラマン=神永が接する禍特対が人間の善性の根拠にはなり得ず、一命を取り留めた同僚の奇行に対してただ冷たいだけの連中に映る。ひいては他の市井の人々との交流なども全くないので、本当にゾーフィでなくとも何でそんなに人間が好きになるのかよく分からなくなる。『日本沈没』曰く「何もせん方がええ」をやるならば、もっと人間性とは何かについて切り込んでいかないと面白くない。だからヒーローものとしても正義の味方をやる根拠が薄いので、カタルシスに欠けてしまうことになる。それこそ「痛みを知る ただ一人であれ」に相当するような、劇的なヒーロー像を提示してもらいたかった。そういう意味でも同じコンセプトで作られた『ULTRAMAN』の方が好き……とは言っても特撮のシークエンスになると冴えを見せるコンテの魅力は爆発していて、郊外に怪獣がいる風景の切り取り方や都心で闘う巨人同士の画に興奮しないはずはない。ぐるぐる回転したり飛び人形の再現に注力する姿勢はむしろ後退しているとも思うが、それでも絆されてしまう。今後の「シン」シリーズがどうなっていくかは分からないが、「『シン・ゴジラ』よもう一度」を期待してなければいつもの樋口映画として楽しめると思います。
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