荒野の狼

シン・ウルトラマンの荒野の狼のレビュー・感想・評価

シン・ウルトラマン(2022年製作の映画)
4.0
2022年公開の映画。オリジナルは1966年のTVシリーズ「ウルトラマン」で、私はオリジナルシリーズのファンであるが、本作はオリジナルの名場面を中心に構成し、科学的背景・説明を現代風にしたもの。オリジナルのファンは大いに楽しめる内容だが、オリジナルを知らない視聴者が楽しめるかどうかは疑問。
ウルトラマンの造形としては、シルバーに輝くボディはカッコよく、頭部にドリルを持った怪獣ガボラとの対決はスリリングであり、また、ビルの間を高速で飛んでザラブ(星人)を追跡するウルトラマンにはしびれる。オリジナルを踏襲した光線技もオールドファンには嬉しいのだが、着ぐるみ・スーツアクターを使った戦闘が少ない点は物足りない。特にゼットン、メフィラス(星人)などの人気怪獣は登場するほとんどのシーンがCG造型であり、リアリティも迫力もない。せっかく、ゼットンの「1兆度の火の玉」というオリジナルの設定をそのまま使い、地球を破壊するほどの威力という現代的な説明まで付けたのに、ゼットンそのものが、空に浮かぶアニメのような映像で終わってしまい、ウルトラマンとの肉弾戦がないのは残念。
本作のウルトラマンは、胸のカラータイマーがないかわりに、体色が変わるという設定だが、50年以上もカラータイマーのある複数のウルトラマンを見てきた日本人にとっては、カラータイマーのないウルトラマンは、それだけで違和感があり、カッコよさに欠けてしまう。
怪獣に対峙するオリジナルの科学特捜隊はネーミングを禍特対(カトクタイ)と、難解な無意味な変更がなされており、ドラマでは中心となる。残念なのは、隊長にあたる西島秀俊が防衛省の所属となっているためか、実際の戦闘は自衛隊が行っており、禍特対は作戦を建てるなど、デスクワークがメインであること。西島は好演であり、特にウルトラマンの命を地球救済のために犠牲にするのは反対とする姿勢をとるシーンなどはカッコいい。しかし、西島の出番は少なく、これは上司役の田中哲司の出演場面が多いためによるのだが、田中は本作の中で重要な役割はないため出演は不要で、その分、西島の出演シーンを増やすべきであった。
一方、活躍するのは長澤まさみであり、ウルトラマンである斎藤工が感情を出さない演技であるためか、長澤が主役といっていい作品になった。ウルトラマンのTVシリーズでは女性隊員は飾り物のような存在であったのに対し、本作では主役級の扱いという点は評価したい。しかし、本作の大きな鍵になるのは、少年を助けるために犠牲になった地球人の斎藤工にウルトラマンが共鳴するという点(地球人の自己犠牲に共鳴するという地球を守る動機付けは1967年のTVシリーズ「ウルトラセブン」にある)であるのだが、地球人の斎藤工の描かれ方が不十分であるため、メッセージとして弱くなっている。本作では、長澤の出演場面を多くしていたことで、刑事ドラマのバディもの、あるいは安易な恋愛作品のような要素が本作に加わったが、これらは、他の作品で描き尽くされている内容であり、2時間しかないウルトラマン映画で、こうした内容に時間を割くのはもったいない。
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