塔の上のカバンツェル

1917 命をかけた伝令の塔の上のカバンツェルのレビュー・感想・評価

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
4.3
第一次大戦を扱った映画の中では、非常にポジティブな作品でした。

それは好戦的や愛国的な作風という意味ではなくて、
あの大戦を主軸に扱った映画は、「ワンダーウーマン」などの時代背景だけを借りた作品やプロパガンダ映画を除いては、大抵の場合、若者たちが延々に命を散らしいく、悲壮感と反戦テーマが全面に打ち出された作品がほとんどだからです。

第一次大戦はご存知の通り、東部戦線を除いては全戦線に渡り塹壕戦による消耗戦が延々と展開された戦争でした。

1kmを奪取するために、数千の生命を消耗し、次の週には敵方にまた奪還される。
相手に出血を強い、疲弊させる戦術を双方が取った結果、ほぼ無意味にも思える突撃命令を積み重ね、命をすり潰していった戦争でした。

この戦争にあり、今作では"攻撃の停止"、軍事行動の中では消極的な命令にありながら、数千の生命を救うためという、非常にポジティブな使命のために、主人公は必死に走り続ける。
この1点でも、全国規模で上映されるだけの作品テーマとして、個性を押し出せていると思うのです。

【長回しについて】
映画的なカット割りに頼らず、場面を連続して魅せる、長回しの技法のレベルが編集技術の進歩により、近年格段に上がりました。

キュアロンの「トゥモローワールド」など、"長回し"が大好物の自分にとって、同じく興味が絶えない"第一次大戦"×"長回し"の今作はドドドドストライクな映画でした☺︎☺︎☺︎☺︎

広告では"ワンカット"というフレーズを前面に出していましたが、本作は明確に場面暗転のカット割が行われており、本当の意味での1カットではないです

(夜を跨いで早朝に命令を届けるという時点で2時間の映画の尺に収めるには仕方ないといえる)

【シネマトグラフィについて】
冒頭から、腐臭漂う死体の山と這いずり回るネズミ、薄汚れた兵士たちと、文字通り地獄のような泥濘の茶色が支配する荒野を2人が彷徨った末に、

一転して、緑の草地と白い花を咲かせた樹々が姿を表す… 地獄と天国を彼らが歩んでいくような情景造りは、より煉獄度増し増しで素晴らしいとしか言えない。

砲撃の振動と、霞める銃弾などの音響もIMAXで絶対見るべき。

【監督のお爺ちゃんについて】
今作は監督のお爺ちゃんの実話を元にしたそうです。
エンドクレジットの、"A・メンデスに捧ぐ"とは、彼のお爺ちゃんのこと。

【1917年について】
今作の時代背景は、1917年の2月から5月にかけて行われた独軍のAlberich作戦をベースにしています。
今作戦で、独軍は戦線を縮小し、一部の撤退作戦を展開しました。
前年の"人間の肉挽き場"と言われた、ヴェルダンの戦いなどの損耗により、戦線を整理する必要が出たためです。

今作で描いた1917年春の後に、もう1年半、戦争は続きます。
1918年の独軍最後の大攻勢ミヒャエル攻勢や、協商国軍の反攻作戦もまだ先のこと。

映画の彼らの地獄はまだ続く…

【思い出したメルギブソン】

メルギブソンの「誓い」を思い出した。
あちらはガリポリ戦線の話だが、白土の塹壕をメル演じる伝令が、攻撃中止を伝えるために走る映画だったので。

【第一次大戦ポイント】

大好物の大英帝国インド軍兵が複数出てる!しかも記憶に残るセリフつき…

さらにインド人兵(シーク教徒)の隣にいる面々も派遣軍と描写されてるので、南アフリカ出身系の兵士と思われる…

"ニューファンドランド連隊"への示唆もあり!

植民地兵が映るだけで、テンション上がる

英国資本のため、フランス軍兵などの協商国兵は皆無…そこが少し残念
(戦線の区割りがあるので仕方ないですが)

イギリス軍の塹壕は、深めに掘り木枠で補強しているのに対して、独軍はコンクリートで補強し、塹壕を直角に掘り進めていくなどその几帳面さが今作でも窺える。
史実では、仏軍の塹壕が1番劣悪だったそうな。

【2周目】
来週、地元の友達を引きずってまた観に行きます

【3周目】
再来週、元職場の先輩をお連れしてまた観に行きます

【2020/07追記】
3周目はコロナ過の影響で行けませんでした…仕方ないので4XD 円盤を予約しました