教授

おもかげの教授のレビュー・感想・評価

おもかげ(2019年製作の映画)
-
サスペンス映画かと思いきや。
じっくりと「女性」というものの「愛と性」を映し出す「映画」だった。

「喪失」という溢れる感情の器を壊される出来事に対しての「処し方」を実に丁寧に描いている。
前半の、一方だけを長回しで映したサスペンス/ホラー的な演出の引き込み方。
映さないことでより、恐怖が増幅される巧みさ。

そこから、答えのない問題を自分なりに昇華するためにだけ、海辺で暮らすエレナのさまよいっぷり。物語全編を通して、その「事の真相」など、そもそもがどうでも良い、という、人間の弱さが生む「幻想に縋る」物語としてきちんと語られている。

事の真相。だけでなく、ひとつひとつの出来事に対しての「感情」を明確には描かない上に、当然、セリフでも説明はされないからこそ「こういう時、どういう感情なのか?」と想いを巡らせる。
その目まぐるしさが、非常に映画的。

加えて。エレナとジャンの「親子」的な繋がりではなく「恋愛的」な歪さも、作劇の深みを感じさせる。
「喪失」によって精神が病みきった状態というのは、回復の形も歪なものだという描写に好感が持てる。

全体的にドラマティックに展開が動こうとするたびに、カーブを切ってダラダラとした展開に何度も移行する点に賛否は分かれそうな気もするが、僕は非常にデリケートで、繊細な感情を見事に描いた良作だと思う。
教授

教授