takanoひねもすのたり

おもかげのtakanoひねもすのたりのレビュー・感想・評価

おもかげ(2019年製作の映画)
3.3
原題Madre、スペイン語で母、です。

元夫ラモン(Raúl Prieto)の元へ6歳の息子を送り出したエレナ(Marta Nieto)父親とキャンプを楽しんでいる……と思っていたところ、幼い息子から「ひとりっきりで海辺にいる」と電話が。
そしてその通話を最後に息子の安否が分からなくなる。
事件から10年が過ぎ、息子は行方不明のまま。
しかいエレナは息子が消えた場所の海を離れがたく、そこの海辺のレストランで働いていた。
夏のある日、成長した息子を思い出させる面差しの少年ジャン(Jules Porier)を偶然に見掛けた彼女は、彼の姿を視線で探し追うようになる。
それにジャンも気が付き、二人は接近してゆく……、という話。

エレナは地元で「息子を失くしてイカれた女」という陰口を囁かれていたりもしますが、レストランのオーナーは彼女の事情を理解しているうえで彼女の仕事振りは評価している様子だし、過去を知ったうえで受け止めてくれている恋人ジョセバ(Alex Brendemühl )もいる。

消えた息子の哀しみを忘れることは出来ないながらも、哀しみを飼い慣らして人生をやり直す……こともできなくはない状況に彼女はいます。

そこに突然現れた、息子の面影を宿す17歳の少年ジャン。
エレナは、最初は「まさか息子かも……」の一縷の望みをかけて彼をストーキングしますが、彼にはきちんと家族がいることを確認し失望。
しかし見掛けるたびに、海辺を歩くたびに、彼の姿を探し見つめることを止めれません。
一方でジャンは、見知らぬ年上の女性が自分の後をつけたり、視線を感じると彼女がこちらを見つめていることに気が付き、興味がわき、ど直球でエレナに接触を図ってきます。
この時は、単純に、年上の女性への興味と10代らしい背伸びした駆け引きで相手の反応を知りたかったくらいの動機っぽい。

しかし2人で過ごす時間が増えて行くに比例して親密さは増してゆき。

エレナ40歳、ジャン17歳、2人が親密になればなるほど、ジャンの家族は不審に思い、エレナの恋人ジョセバは彼女の心の内を読んだうえで「彼にこれ以上は近よらないほうがいい」と警告し、自分と一緒にここからスペインの郊外の家に引っ越そうと提案、一度はエレナはそれを受け入れるのですが。

エレナは、息子の代わりというか、ジャンを通したその向こうに息子の面影を見ていたつもりだったのが、ジャンの恋情が混じる行動や言動を向けられるたびに「ジャンは息子ではない」を強く意識せずにはいられなくなる。
ジョセバから「(ジャンを)どうしたいのか」と問われても、答えられない彼女。
母親としての目線と気持ちと、息子ではないという違和感と、ジャンへの友情とも親愛ともつかないごった煮の感情。

どこからジャンが一途にエレナに恋をしていったのか。
たびたび会うたびに、話すたびに、仲間達とは違う雰囲気の年上の女性に惹かれていったのか、彼女の彼を見つめる眼差し、向ける微笑、穏やかだけど時々突き放すような物言いをして距離を取ろうとする謎めいた部分なのか。

これらの疑問への回答をジャンは全て知ったうえで、エレナを求めるんですね……、
「結婚して」
と言うこの恋情の真っ直ぐさ。
ジャンの言葉は若さ故の、結果を考えないゆえの、吐き出された言葉だったとしても、17歳の彼のこの恋へ断ちがたい気持ちの強さが見えて、もう、これ絆されないわけはなかろうと。

未来のない恋であることは、もうお互いに理解していて。
もうごった煮の感情でもいいじゃない、母親としての愛情なのか分からなくても、この気持ちの延長線に形容しがたい形で芽生えた恋があるのであれば。

森の中でエレナのいる車のほうを一瞬振り返るジャンの顔。
この夏のこの出会いは彼の成長になるのかも……ひとの心の傷を分かる男になってくれるといい。

そしてエレナ。
ようやく硬くしこりになっていた喪失の痛みが少し浄化されたのではないかと思えるラストシーン。

電話を掛けた相手は元夫のラモンか………。
(いや分かるといえば分かる。立ち直り新たな生活を築きだしたラモンに罵倒の限りを投げつけたんだから。そして自分が一歩も進めてないことに気が付いて彼に激昂したから……、自分もようやくスタート地点に立てたかも知れないと話したくなるのは彼なんだろうと思うよ……。)
でも、そこは、そこはジョセバにしてあげて欲しかった……。
ジョセバが切ねぇ。