土平木艮

おもかげの土平木艮のネタバレレビュー・内容・結末

おもかげ(2019年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

あらすじ…スペイン人の主人公・エレナ。別れた夫・ラモンと旅行中の『息子・イバン(6歳)』から電話。フランスの海岸で迷子になった模様。電話は切れ、息子は消息不明→10年後、その海岸のレストランで店長をつとめるエレナ。空き時間に海岸散策、息子を探してる?。地元民から『イカれたスペイン人』と陰口→パリから来た少年・ジャンと知り合う。イバンの面影を見る。ジャンの家まで尾行→翌日、ジャン来店。尾行に気付いてた模様。二人は親しくなる→その様子を、ジャンの家族やエレナの恋人・ヨセバは良く思わず→(ジャンはエレナに恋心。エレナはジャンに親心?恋心?)→ラモンから電話、再会。ラモン再婚予定で子供もいる。過去を思い出し激昂、ラモンを責めるエレナ→帰宅後、ジャンからの着信履歴を発見。ヨセバの制止を振り切りジャンのもとへ(ヨセバとはお別れ)→親から逃げて来たジャンと再会。ジャンの『僕が息子に似てたから(好きなの)?』との言葉で、『息子ではない、ジャン』への気持ちを解放。だけどお別れ。ジャン、親元へ→エレナ、帰宅後ラモンに電話。



冒頭、息子からの電話の場面の『ワンカット長回し』で一気に引き込まれる。このワンカット長回し、実は一本の短編作品だったらしい。納得の緊張感。この作品本編は『その後のお話し』として作られたらしい。

でも、その本編は特に大きな出来事は起こらず、物語は静かに進む。


『表情』『言葉』の一つ一つから、人物の胸の内を読み取る過程を堪能する作品。

ジャンがエレナを見る目は『恋する少年』そのもの。
対するエレナは、実に微妙な表情。『恋人を見つめる表情』『息子を見守る母親の表情』が入り混じる。演じるマルタ・ニエトの演技が良い。

ラスト前…ジャンの気持ちが単なる『年上女性への憧れ』ではなく、『自分に息子のおもかげを見てるエレナ』であるコトを承知の上での『恋心』だった…というトコロを見せるのが粋な演出。この時点で二人の気持ちは『歳の差』を超えて対等。
ジャンの恋心も、エレナの過去への執着も、『吹っ切れ』て、ひと夏の思い出は終了。
エレナも『イバンは戻っては来ない』ことは分かってはいた…。

吹っ切れて、冷静になれて初めて『息子を失って苦しんでた』もう一人の存在・ラモンを許し、思いやれる心理状態に至った…ってコトか。

そして、みんな『新しい一歩』を踏み出す。


物語としては特に大きな盛り上がりも無いので、退屈に感じる人も多いはず。

個人的には、この静かな雰囲気は好き。

画面いっぱいに広がる海の景色の美しさ。波の音。それだけでも『劇場で観て良かった』と思えた。余韻に浸りたい作品。



『行方不明の息子を探す母親』を描いた作品ながら、先日鑑賞した『ブリング・ミー・ホーム』とは全く違う方向性の作品。
土平木艮

土平木艮