キャサリン

異端の鳥のキャサリンのレビュー・感想・評価

異端の鳥(2019年製作の映画)
3.8
人間の本質について。
ホロコーストを逃れるためにスラブ系地方に疎開した少年の生きるための逃避行。
モノクロの映像と極端なセリフの少なさ、劇中曲すらない、強烈なまでにストイックな作品。

劇中ではスラブ系言語を基にした人工言語が使われているらしく、それによって舞台となる国が特定できない。
知らない国の知らない出来事といったスタンスは、悪夢じみた御伽噺のようでゾッとする。

疎開先でおばあさんが亡くなり、一人ぼっちとなった少年が、様々なひとの住処を渡り歩くロードムービー的なプロットだけど、その過程で少年は「純粋なだけでは、優しさだけでは生きていけない」と悟り、暴力や嫉妬や復讐という、ある意味「人間らしい」様相に変貌していく。
無邪気に目を光らせていた少年がラストにかけてどんどん表情を失う様は映画としては本当に見事。
解説を読んで知ったけど、少年があちこちで迫害される理由は、彼がユダヤ人であるからだけでなく、スラブ系民族と異なる見た目であったということもあるらしい。
絵の具を羽根に塗られた鳥が群れに混じろうとしても、色が異なるという理由で拒絶されてしまうのはまさに隠喩だったのか…と。

動物の扱いもかなり強烈で、序盤のイタチ(?)、羽を塗られた鳥、頭を落とされる山羊は、無抵抗で弱い生き物である人間の象徴であり、それらに対して情け容赦なく蛮行を行うのもまた人間という。
暴力はいつの時代も普遍的なもので、暴力こそが人間性であると言っても過言ではない。
終盤、よくしてくれた兵士に「目には目を、歯には歯を」と教えられる。
映画序盤にうかがえた両親や帰郷への想いは、自分を拒絶した恨み憎しみへと変わる。

ちなみに父親の腕に刻まれた囚人番号は、収容所に収監される前に、名前と引き換えとされるもの、誰かの所有物として生き死に全てを管理するためのもの、認識的に人間性を剥奪するものだと思う。
ラストシーンで観客に対して自らの名前を明かした少年は、その人間性を背負ってどのように生きていくのか。

3時間弱の長い尺、少ないセリフ、白黒の映像と、かなり観客の鑑賞ハードルを上げている割に見難さはなく、短編的に区切られているので構成も理解しやすかった。
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