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異端の鳥のtjrのレビュー・感想・評価

異端の鳥(2019年製作の映画)
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3時間をかけて少年の9つの居場所を描く、ある意味ではロードムービー。
モノクロの美しい映像とは裏腹に、人間の醜さを煮詰めたような内容。それが9つのアソートになっている。
各章タイトルは少年の保護者に当たる人物の名前だが、少年の名前はいつまで経っても分からない。名前を奪うことで支配するという「千と千尋の神隠し」を思い起こした。

作風は、可能な限り説明を廃し、セリフはほとんど無い。しかし、すべてのショットが画になり、すべてのショットに意味がある。
ピアノを弾くシーンで裕福な家庭で育ったのかと思いを馳せ、髪を切られるシーンで時間の経過に気づくように。
戦時下のユダヤ人を描いた作品だが、言葉を選ばずに言うと映像表現力の高い非常に好みなアート映画の一本となった。
ウド・キア、ステラン・スカルスガルド、ハーヴェイ・カイテル、バリー・ペッパーなど激渋の役者陣も揃っている。

単身東欧のどこかに疎開させられるも、いつでもどこでも“ユダヤの豚”と蔑まれ、身体的・精神的暴力を受ける少年が主人公。
半世紀以上前のホロコーストサバイバー作家イェジー・コシンスキーの原作を映画化しており、辛い描写でもフィクションだからと逃げることができない。
様々な人間の闇(と安易に片付けることができないが)と、生きるために文字通り何でもする少年の生き様はずっと頭に残り続けるだろう。

異端の鳥(原題:the painted bird)をダイレクトに表現するカラスのシーンと鳥の群れのシーンに、人間の動物性を見た。
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