賽の河原

マリッジ・ストーリーの賽の河原のレビュー・感想・評価

マリッジ・ストーリー(2019年製作の映画)
4.4
いやぁ...いい映画っすねぇ...ってしみじみ言いながら劇場を後にする作品でした。
今の仕事、最高だなと思う理由はいくらでもあるんですけど、シンプルにシーンの先端をいく目と耳の数が増えるのがいいですよね。今年振り返っても色んな素晴らしい作品を色んな人から教えてもらったよなっていう。
本作『マリッジ・ストーリー』はなんとなく『ブルーバレンタイン』みたいな話なのかな?とか思ってましたけど、観てて、あっこれ『クレイマー、クレイマー』っぽいなぁみたいなね。
本当に心の底から結婚というものに憧れざるを得ない映画ですよね。
まあ結婚というイベントには疎いので割愛しますけど、俺こういう映画観てて「そういうもんなのかな」って思うのは「自分の子どもの親権ってそんなに欲しいもんなんすかねぇ」って話なんですよね。人様の子どもをたくさん見てて思いますけど、人様の子どもですらなかなかフラットに見れないじゃないすか。
自分の血が入った出来損ないみたいなのが出てきたとき、俺、自分の子どもだろうと身内ゆえに結構苛烈に当たっていく気がするんですよね。
まあいいですわ。前置きが長い上に人間として色々欠落した発言だらけなので先進みますけど。
とにかく2日連続で褒めますけど、アダムドライバー最高。アダムドライバーが出る映画が軒並みいいですよ。作品選びのセンスもいい。この人が凄いのは常にアダムドライバーなんですよね。そのまんまのルックで出てくる。でも抜群の演技力。カメレオンみたいなっていうよりも感情の機微とかの表現が素晴らしいっすよね。
スカーレットヨハンソンもさすがでね。初めて弁護士に過去を語るシーン、圧巻のワンカットですよ。ツイッターランドで脚本に感情面までゴリゴリ書かれてるよって件が流れてましたけど、半端じゃない実在感でね。説得力しかないっていう。
この映画、始まりからして「いい映画っぽい始まりだな〜」って感じからトンと落として、空洞で持っていくっていう作劇なんですけど、要所要所のカットとか非常に印象的でね。
地下鉄の中のショットとか門を閉めるシーンとかさ、絵的にもすごく締まってて最高。
それでいて、離婚っていう当事者にとっては大事件でしかないことをめぐる第三者達の姿の描写とかはコメディですよね。
勿論圧倒的に優勝しているのは離婚の調停が泥沼化した挙句、スカーレットヨハンソンとアダムドライバーが「裁判勝つためとは言え、一度は愛した人間を法廷で貶し合うのは疲れるわな、少し歩み寄ろうや」となる最高シーンですよ。もう優勝としか言いようがない。
これほどの勢いで相手を罵倒する口論って、あり得るだろうかっていうね。
逆に言えば、このシーン身につまされるくらい分かりますけど、夫婦という関係でなければこのような相手の人格を全て否定するようなことは出来ないっていう。本当に壮絶な、それでいて、許容できない他者と生きていくことがいかに難しいのかを浮かび上がらせる最高シーンですよね。
この話の紐帯であり着地点になるのはそれこそ子どもなんですけど、これがまぁ最高に気の毒でね。 「いやぁ、結婚って本当にいいものですね」と思いました。
今年は『ROMA』から始まって『アイリッシュマン』そして本作とNetflixが台頭した1年でしたけど、こういう映画がバンバン作られるとなるといよいよ映画業界全体にも影響が出てきそうですね。
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