マリッジストーリーとはいうものの、実際は離婚調停の話。だけど瀬戸際に立ったことで結婚の形を見つめ直す話でもある。自分の未来、子供の将来、生活拠点、夫婦生活、すべてを両立させようとして妥協できずに夫婦の間で軋轢がどんどん広がっていく物語だけど、お互いが大切なはずなのに相手を憎み罵り合い、子供を想いながらいいように利用して、どんどん二律背反的に理想と現実が乖離していき取り返しがつかなくなっていく経過は本当に胸が苦しくて、そして描写の説得力もすばらしかった……二人の気持ちが痛いほどわかるし、必死になればなるほど人間の醜い打算的な部分が露わになってくる。それを否定し、もっともらしい理由を塗り固めていくにつれ自分を見失い、転がり落ちるようにやり場のない怒りのような感情に支配されて身動きが取れなくなってしまう。アダムドライバーがふさわしい父親を演出しようと一人奮闘するシーンなんてもう、あまりに惨めで悲しくて見てられなかったですね……調査官のために植木を持ち込み、絵を飾り、なんでこんなことしてるんだろう？って我に返りそうな一瞬の違和感と空虚さの連続が生々しかった。居心地の悪さをうまく描き出した映画はいつの時代も傑作。
