ナガエ

キル・チームのナガエのレビュー・感想・評価

キル・チーム(2019年製作の映画)
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【危険を冒してでも正義を貫くべきか、それとも屈するべきか…】

同じ状況に立たされた時、屈しない自信はない。
基本的には正義を貫きたいと思っている人間だけれども、状況は、あまりに彼に分が悪い。

やはりそれがどんな正義であれ、「自分の身を守った上で」というのが大前提だと思う。時に、自分の命を投げ出してまで誰かを助けたり、窮地を救ったりする行為が英雄視されることがある。その人の行為そのものは素晴らしいと思うけど、やはり「命を失ってまで何かを行うこと」を称賛する雰囲気を作るべきではない、と思う。自分も生き残るつもりで助けに入り、結果的に命を落としてしまったという状況ならまだしも、最初から自分の命を抛つつもりで行動を起こすことを許容するような風潮は良くない。

だから、主人公の彼が、結果として正義を貫けなかったことは、僕は仕方ないことだと思う。確かに、仕方ないで済ませていい問題ではないし、もちろんそれでは済まないわけだけど、しかし、自分の命を失わないという条件が満たされる保証がある環境ではなかったから、彼の選択を責める気にはならない。

しかし本当に、クソみたいな個人のせいで正義が実現されない状況というのは、胸くそ悪い。

内容に入ろうと思います。
2009年、アフガニスタンのカンダバールに駐留している米軍が舞台。主人公のブリッグマンは、米兵としてアフガニスタン行きが決まったことを誇りに思い、そんな息子のことを父も誇りに感じている。部隊では、ブリッグマンはからかわれるような対象だったのだが、上官が優しく接してくれた。しかしその上官は、大勢の米兵の前で爆死した。
その上官の代わりにやってきたのが、デュークス軍曹だ。彼は、自身の仕事は「統率」だと語り、それまでの上官とはまったく違う、かなり高圧的で厳しい管理を行うようになった。
ある日ブリッグマンは、デュークス軍曹の恐ろしい一面を知ってしまう。なんと、罪のない民間人を、「手榴弾を投げようとした」という嘘をでっちあげて次々に殺害しているのだ。明らかな犯罪行為を目にしたブリッグマンだが、軍人としての自身の立ち位置、そして、裏切り者だと判明した場合の制裁の苛烈さを踏まえ、今ここで何が起きているのか父に告げるかどうかずっと葛藤していた。
そしてある日…。
というような話です。

実際の出来事を元にした作品で、映画の最後には、裁判の顛末が字幕で表示された。新兵(この映画のブリッグマン)は、懲役三年の実刑判決。そして、上官(この映画のデュークス)の裁判で彼に不利になる証言をし、おそらくそのこともあり、上官は終身刑となったようだ。ブリッグマンへの刑が妥当かの判断は難しいが(映画で描かれていたことがすべて事実なら、もっと軽くてもいいと思うけど、ただ、いずれにしても証拠がないだろうから、新兵の証言をどこまで真実と捉えるかという問題があっただろうと思う)、上官への刑は妥当だろう。こちらも、物的証拠はおそらくないだろうが、人目を憚らず堂々と、殺害は部下にもやらせていたのだから、証言だけはきっとたくさん集まったことだろう。

映画としての感想で言うと、ちょっと微妙だったかなぁ。この映画で描かれていた事実はかなり興味深いけど、映画としてはちょっとなぁ、という感じだった。おそらくその理由の大きな部分は、主人公であるブリッグマンの背景的な描写がほとんどない、ということだと思う。彼がどういう人物で、どういう経験を経てアフガニスタンまでやってきて、アフガニスタンにやってくるまでどういう価値観を持つ人物であったのか、という部分が、あまり見えない。まったくのゼロではないにせよ、ブリッグマンの人物像がほぼ、戦場に来てからのものしか描かれないという点が、映画として微妙だった部分だと思う。

想像だけど、おそらく、出来る限り事実に忠実に描こうとしたのではないか、という気がする。そしてそうだとすると、作中で描かれている当の本人から直接話を聞くのは結構難しいだろう。裁判資料などから、戦場で何が起こったのかというところはある程度再現出来ても、それ以前の関係者の人間性みたいなものは実際的に追えなかった(あるいは、追えても映画化する許諾を得られなかった、とか)ではないかと思う。映画は90分程度だったので、時間的に盛り込めなかったということはない。おそらく、制作過程で難しいと判断する何かがあったんだろうと思う。

おそらくそういう、出来る限り忠実に作ろうとしたからというような前向きな理由でこういう映画になったのだと思いたいけど、だとしてもやっぱり、主人公の背景が見えてこないために、彼がどの場面でどういう葛藤をしているのかという点が、より細かく見えてこなかったように思う。一般的な理解として、「この状況に置かれたらなかなか正義を貫けないよね」という共感はもちろん出来るのだけど、それ以上踏み込んだ、「こういう人間だからこそ、ここでこういう風に葛藤したのだ」という解像度の細かさみたいなものをあまり感じられなかったのが、ちょっと残念だった気がする。

ただいずれにせよ、「こういうことが起こっていたのだ」という事実を知るという意味では、やはりこういう映画の存在価値は大きいなと思う。
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