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ディック・ロングはなぜ死んだのか?のBigsのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

A24印はやっぱり観たくなる、いまやブランドがしっかり確立されている印象。

映画自体は期待以上に面白かった。
話としてはアホかと思うような展開なんだけど、それが実話ベースであり、今のアメリカのある側面を反映してしまっているんだろうという恐ろしさ。
『ファーゴ』のような犯罪ブラックコメディだけど、それが社会批評にもなっている面白さ。

出てくる登場人物が尽くアホすぎて、やることなすこと全て裏目に出て事態がどんどん悪化していく(ただ、本当に自分はこの状況をバカにできるのかということも考えてしまう)。
もう挙げたらキリがないけど、車の処理(テキトーに川に落とすけどうまくいかない)、財布の処理(カードが残っていたり)、車を盗まれたことの作り込みの甘さ等、とにかくやることなすこと全て雑、雑すぎる。自分に不都合なことは隠そうとして、息を吐くように嘘をつくけど、その嘘も何も考えずに反射的に言うから全く整合性がない。あまりに雑だから、観ながら「それは無理があるだろ」と思っているとやはりその通りボロが出るけど、事件が事件だけにブラックな笑いを誘う。終盤のオルセン夫妻、保安官、ジェーンロングが集う場所で、ジークがボロを出し、「もう何もわからない」とパニックになる様は悪いけど笑ってしまった。「人生の半分くらいラリってる」は名言。
あとは、ジークやアールだけでなく、ジークの妻も、レイプ殺人犯が出たらしいということと、自分の家の車が盗まれたことをすぐに関連性があると決め付けていて、論理性の無さが描写されていた。
このあまりに解像度の低い、雑な人間たちがけっこう重大な事件を起こしてしまう(関与する)という話は『ペイン&ゲイン』や『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』を連想した。しかもどれも実話ベースという。

ディックロングの死の真相については、途中まで話のフックになっているが、その真相もあまりにアホすぎて言葉にならない。
これらの人物たちはアホなだけで邪悪ではないかというとそうでもない気がする。真相を知った時の奥さんの反応とか見ると病的な同性愛嫌悪を持っているし、ディックロングを病院に運ぶときも友人であっても彼の容態よりも自分の保身を優先していたり、その邪悪さも含んでいたと思う。僕は、この人たちがアホだけど憎めない奴らとは思えず、こういう究極的に視野が狭く、思慮の浅い状態が『ブラッククランズマン』で描かれたような人たちを育ててしまうし、もっと言えばトランプ支持者たちになってしまうんじゃないかとも思った。
ジークは粗暴ではないけれど、もっと暴力的な人間であれば、下手すりゃ口封じに奥さんと娘を殺すことだってあるのではないか、この雑さだと。
これは決してアメリカだけの話ではなく、日本だって近い状態にあるし、更に言えば自分だってそういう部分があるかもしれない。全く馬鹿にはできず、やはり理性的に生きないといけないなあと思う。

ディックロングって名前自体、ある意味事の真相を表していたんですね。
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