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マザーレス・ブルックリンのkitoのレビュー・感想・評価

マザーレス・ブルックリン(2019年製作の映画)
3.7
期待通り正統派ハードボイルドの私立探偵ものとして面白かった。

ジョナサン・レセムの原作は未読なのであくまで推測だけど、長尺であったり、主人公の心情吐露のナレーションが入ったり、できるだけ原作の雰囲気を映像化しようとしたのではないだろうか。監督・脚本・製作・主演をエドワード・ノートンが務めており、きっと原作が大いに気に入ったのだろう。

私立探偵の一人称で語られる米国のハードボイルドミステリ小説は、1940年代にレイモンド・チャンドラーがそのジャンルを完成させ、同時に頂点を極めてしまったと言われている。フィリップ・マーロウという稀代の魅力的なハードボイルド名探偵のキャラをいまだに超えることができない。以降、小説でも映画でも時代の変化に合わせながら個性を持たせるために、女性探偵や男性同士のバディだったり男女バディだったり、アル中やハンディキャップを抱えたりと数多くのバリエーションの私立探偵が生まれてきた。

本作では主人公の探偵がチックという一群の神経精神疾患のうち、音声や行動の症状を主体とし慢性の経過をたどるトゥレット症候群を患っているという設定になっている。突然、短い叫び声、汚言症(罵りや卑猥な内容)、うなり声、ため息をつくなどし、その発言が一見、意味があるようにみえることがあり誤解を生むのだそうだが、本作では特にストーリーに関係はしない。タイトル通り孤児で虐待を受けたという厳しい生い立ちを際立たせ、物語に膨らみを持たせる要因なのだろう。

ストーリーは巨悪による不正と秘められた血縁の悲劇というチャンドラー時代からのテンプレが踏襲されている。ただ、このジャンルでずっとベストな映画だと思っているロマン・ポランスキー監督の「チャイナタウン」のような衝撃的な哀しい終わり方でないのは、逆に新鮮に感じた。

まったくの余談だけどーー
劇中、主人公がしょっちゅう「if」と発していることに関して。以前、日向坂46の冠番組で、帰国子女のメンバーのくしゃみが「イ〜フ!」と大声で言ってるとしか聞こえないというメンバー暴露エピソードが話されていた。関西出身の件のメンバーから「それは盛ってるで!」という名言が生まれる一連の流れが出来上がり、大爆笑したのを思い出した。
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