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WAVES/ウェイブスのJTのレビュー・感想・評価

WAVES/ウェイブス(2019年製作の映画)
5.0
鮮烈な赤と青の波が押し寄せる
傷ついた心を叫ぶ音楽が渦巻きながら
脈打つこの映画はわたしたちそのものだ

2020 . 10 - 『 Waves 』

これほどまでの映像体験だとは想像以上だった
この時代ならではの新しい物語の語り方が芽吹き、生を実感したのは『君の名前で僕を呼んで』以来で、構造も性質も全く異なるが確かに「今」を捉えている

グザヴィエ・ドランの『トム・アット・ザ・ファーム』を彷彿とさせるアスペクト比の変化や豊かなカラーリングと独特なカメラワークが印象深い
アスペクト比についてはスタンダードになったりワイドになったりで驚くほど多目的な効果をもたらした
そして現代の名曲たちがそれらを彩っており、ミュージック・ビデオのようでもあるけどそうではない
現代を象徴しながら、人間と音楽、音楽と映像の密接な関係を突き、心の機微を表現したまさに今の映画
悪く言うと人工的だがこれこそ映画の醍醐味で魔法だ

あなたにとって青は何色で、その瞳にはどう写るのか
安らぎや、あるいは孤独を感じたりするのだろうか
あたなにとって赤は何色で、その瞳にはどう写るのか
高ぶりや、あるいはざわつくような怖さなのだろうか
あなたの怒りはどこから来て、どこへ向かうのだろう
あなたの幸せはどこから来て、どこへ続くのだろう
どんな時に笑い、何があなたを喜ばせ、泣かせるのか
誰を憎み、誰を愛し、どうしてあなたなのだろうか

小さかったころ海が苦手で、足のつかない深さや、底が見えない暗い海中、激しく大きな波が怖かった
だから浅瀬で穏やかな波に流されたり、ただ眺めることが好きで、それでも好奇心で波に呑まれたりして
その度に、波の怖さってゆっくりと高さをつけてから急に打ちつけるその勢いが怖いんだなと思ったり
波を受けるまでは、自分がその衝撃に耐えられるのかわからないから恐怖になるのかなって考えたりした
でも父がそばについてくれた時に恐怖は簡単に消えた
たったひとりそばにいるだけで、波を送り返していた

波は感情の起伏で、必然で運命で、あなたとわたし
恐怖とは疑問で、必然の答えで、あなたとわたしだ
知りたいのと、知りたくない想いのこのせめぎ合い
変わってしまうこと、失ってしまうことから逃げた
なりよりも恐ろしいのは、言葉にできなかったこと
それはあなたの赤と青があまりにも鮮烈だったから
あなたがどこかで泣いている時、わたしは眠っていて
わたしが何かに怒っている時、あなたは笑っている
そうやってあなたの色を知って同じ苦しみを知った
あなたの赤への恐怖と、わたしの青への恐怖は異なる
それでも恐怖は恐怖で、あなたの恐怖はわたしのもの
わたしに押し寄せる波なんて恐れるに足らなかった
この世界、あなたとわたしは、単色ではなかったのだ
赤と青は決して一色ではなく、その奥に色彩が広がる
あなたの赤とわたしの青、あなたの波とわたしの波へ
いまはあなたの波をも受けとめて、迷わず飛び込む
だからどうか、傷だらけのわたしたちに真実の愛を
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