回想シーンでご飯3杯いける

失くした体の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

失くした体(2019年製作の映画)
3.8
原題も邦題も意味はほぼ同じ。「J'ai perdu mon corps」=私は体を失いました。つまり本作の一人称は「手」なのだ。体を失った手が、自分の体を探しパリの街を彷徨う。冷蔵庫から飛び出してきた手が、5本の指を巧みに使いながら外の世界に旅立つ冒頭のシーンは、ホラー的な映像表現も秀逸で、本作の得体の知れない魅力を見事に表現している。

手が独自の行動を起こすというプロットから、手塚治虫の「鉄の旋律」を連想するのだが、こちらはそこまでメッセージ性が強いわけではなく、全体のテイストはファンタジック。生命観溢れる手の動きをあくまで主軸に置きながら、手の主である少年の記憶や、女性との淡い恋心を描いていく。

アニメと言えば近年では、いかに綺麗に、いかに実写に近く、という方向性に傾き過ぎている事を残念に思っていたのだが、本作のように実写では表現できない、または実写で表現するとメッセージが固定的になり過ぎる作品でこそ、その真価を発揮するのだと思う。アニメは実写の代替ではない。アニメにしかできない事がある。