ニューランド

ファイアー・ウィル・カムのニューランドのレビュー・感想・評価

ファイアー・ウィル・カム(2019年製作の映画)
3.5
まさに映画そのもの、その成り立ちの神秘を具現しきった作で、グレー系(霧的白も含む)や淡いグリーンが地下水如くに染み出し色彩による図の内の区分け・対比を無化したようなトーン(分かれてないだけで内からの鮮やかさは充分以上)、しかしそれは存在に真の厚み・実体の荘厳を与えきってる。映画と現実・映画内映画性の境界がない。カット・デクパージュも確かに存在し、カドラージュのポイントの押えも唸る程だが、それは直接的意味内容を無視して、独歩している気品だけがある。キャラも寡黙が共通し・その説明も敢えてしないような一見ストイックにも見えるが、たまたま表にそう見えた・そう描写を流しただけで、何の拘りもないというのが本当のところに思える。話題になった山火事ですら、クライマックス・カタストロフィへの行き着き、でも何でもなく小さな緑の雑草の列と同じ存在感だ。気負いも何もなく、映画の神へのプレッシャーだけの叙述が繰り広げられてゆく。
映画美を賞賛する以前に映画のカオスと昇華が存在していってる。映画なんて単なる手段でそれ自体あまり価値がないと考えてる(価値があるのは映画の扱い方だ)私は戸惑う。勿論悪いどころか立派で、こんな肌触り・手応え・質感はキューブリックなんかをも遥かに凌駕し、M・パウエルぐらいしかお目にかかってないものだと思う。しかし、この作品に積極的に参加してゆく気もそうしないのだ。
誰でもこの映像時代、自分の根っこをつくってる原風景を、フィルム・ビデオに現したいと思うだろう。ベースとしては本作は最良の出発点を持ったと思うが、異物とあるいは目には見えずとも、闘わすレベルが必要だと思う。勿論カンヌを席巻したということもあろうが、それ以上に矢田部さんが惚れ込み、肝いりで実現の上映だと思うが、彼も好きなものに溺れることもあるということか。
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