ポレポレ

ジャスト 6.5 闘いの証のポレポレのネタバレレビュー・内容・結末

ジャスト 6.5 闘いの証(2019年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

Amazon Prime Videoで鑑賞。

麻薬撲滅を目指し、特別チームを率いる捜査官サマド(Payman Maadi)。強い信念の下に行動する彼は強引な手法を用いることも躊躇わず、部下から反感を買うこともしばしば。ようやく元締めのナセル・ハクザド(Navid Mohammadzadeh)を逮捕するが、過去の捜査ミスを裁判所に突かれる等して有罪立証に難航する……。サマドたちがナセルを逮捕するのは上映開始から40〜50分後と割に早い。

サマドの部下ハミド(Houman Kiai)が売人を追跡するも取り逃し、その売人は工事現場の深い穴に落ちてそのまま生き埋めにされる冒頭から惹き込まれた。街外れに積まれた土管からうじゃうじゃと湧いて出、警察署の廊下や留置部屋にぎゅうぎゅう詰めとなるホームレスたちの数に圧倒される。換気扇が壊れ、人熱も凄まじい留置部屋で彼らがトイレの水を浴びて涼をとったり、一斉に部屋が開放されて大勢が一気に出たために先に出ていたナセルが圧し潰されそうになる場面も凄かった。

麻薬王ナセルはサマドにしきりに賄賂を持ち掛け、釈放・減刑を求めてあの手この手を使う。うまく事が運ばず苛立ち、涙する様はただの弱い人間。家族を養い貧乏から抜け出すために麻薬ビジネスで稼いだと主張するナセル、その麻薬が他者を更なる貧困と不幸に追い遣っていると解っていながら。結局己の稼業が家族に不幸を齎し、あまつさえ弟はビジネスを継ぐと言い出す始末……全てを手に入れたようで全てを失くした彼の人生の皮肉なこと。処刑直前、ナセルも面会しに来た家族も涙にくれる中、甥っ子が得意げに披露する側転🤸が印象的。

元締めを逮捕しても依存者が増えるばかりの現状に絶望し、チームを去るサマド。警察によって高速道路の植え込みからホームレスたちが追い立てられる場面で映画は幕を閉じる。麻薬を始めとする違法薬物の取締り・逮捕は鼬ごっこも甚だしい社会問題。ハッピーエンディングで終わらないところがリアルだ。

身体障礙がある売人(Asghar Piran)が息子(Yusef Khosravi)を身代わりにし、息子も父親のために積極的に偽証したり、「父の名に誓って」・「母の名に誓って」と言う。……子が親を深く尊敬し助ける、現代日本ではあまり見られないイランの親子観・家族観。また、全身黒尽くめで顔と手先以外を隠した女性警察官の姿がちらほら。厳格なイスラーム国家であるイランならではの光景だろう。
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