nt708

テイクオーバーゾーンのnt708のネタバレレビュー・内容・結末

テイクオーバーゾーン(2019年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

タイトルがタイトルなだけあって『そして、バトンは渡された』と頭の中でリンクする部分があったが、誰から誰へバトンが渡されたかが明示されていない本作はそのように関連付けるのも正しくないように感じる。

本作の主人公は14歳の少女。3年前に両親は離婚し、今は金にだらしのない父親と貧しい暮らしをしている。そんな少女は中学校で陸上部に所属しており、彼女の実力は随一。きつい性格からか同級生には敬遠されがちではあるが、後輩からは実力の高さゆえ尊敬されているようである。そんな彼女のライバルは陸上部のキャプテンで、クラスでは学級委員を務める優等生。家は裕福で暮らし向きは主人公と全くの逆である。

しかし、主人公が放課後に夕食の買い物をしているとライバルと両親の離婚をきっかけに別れた弟、彼らに付き添う自分の母親を見かける。そこで初めて主人公は母親が再婚し、そのうえ再婚相手が自分のライバルの父親だと知るのだ。この事実を知ったとき、彼女が何を思い、どのような行動を取るのか。別れた両親、弟、ライバルとの関係にどのようなかたちで救いが与えられるのかというのが本作の一番の見どころである、、

なのだが、一番の見どころの描き方が些か拙速であるように感じた。本作のような話の展開上、それぞれの登場人物にそれぞれのかたちで救いが与えられるのは当然のこと、、したがって、どのように救いを与えるかが最も重要になってくる。ところが、本作は登場人物たちを追い込みに追い込んでから救いを与えるまでがあまりにも淡白で、最後のカットを除いては心が追い付かなかったというのが正直なところである。登場人物たちの追い込み方、つまり葛藤の発展のさせ方が丁寧だっただけに残念だ。

とはいえ、その一点を除けば14歳の視点から家族や友人、人生そのものをリアルに描いた映画として本作は実に優れているだろう。14歳というアイデンティティが揺らいでいる人間を主人公に据えるのはそう簡単にできることではない。それを見事にやってのけた本作はそれだけでも十分に観る価値のある映画なのだろう。こういう映画をまだ作れるのであれば、まだまだ邦画も捨てたものじゃない。
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