イトウモ

ファースト・カウのイトウモのレビュー・感想・評価

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
4.8
いかにもアメリカ的な富と欲望の物語として見たときに、そして同じ系譜にあるはずの近作と、富の象徴たる液体の流出シーンを見比べて見たときにこの映画の煌びやかな価値がひとつすくいとれるように思う。
決して、演出の芸に興味もなく快楽は乱暴な祝祭と決めつける『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の粗野にも、快楽は毒々しい悪辣と決めつける『ゼア・ウィルビー・ブラッド』のクソまじめにも少しもこの映画は似たところを持たない。真っ黒な液体を決して垂れ流すことのない可愛らしい乳牛が上流から筏に乗ってやってくるショットの甘やかさに惚れ惚れする。なんてチャーミングな映画なのだろう。欲望と快楽について、なんと賢く余裕にあふれたユーモアを見せる映画だろうと愛しくなる。

とりわけ、富なくして快楽がなしえないこと。それをなす芸は、盗みとよく似たものとして描かれること。ここに作者の芸術感が宿るような気がしていたく感動した。

味覚を映像がどう表現するか。泥棒と行列によってそれをやってのける上品さにも唸った。
長回しも決して落ち着いて見ることはできず、低く構えたカメラの前に叢が立ちはだかり、昼間の道も煙が遮り、落ち着きのない光がいつもゆらめく。こういう印象派的な絵画センスを備えた(広告的なてかてかばかりが最近は多いけれど)作家は最近とくに見なくなった。