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SKIN/スキンのsssのレビュー・感想・評価

SKIN/スキン(2019年製作の映画)
4.0

短編は傑作だった。
長編も似たような映画かと思いきや全く別物だった。
短編は、ネオナチに一泡吹かせる話で、そこにはカタルシスがあったのだが、長編は一泡吹かせるのではなく、ネオナチの一員がネオナチグループから抜ける困難と苦悩を描いていて、全然違う物語だ。

彼はあの女性とその娘たちに出会うことでネオナチグループから抜けようとするが、はたして人生を捧げたネオナチ思想を捨ててまでその女性と一緒になりたいという説得力があの女性にあっただろうか?

つまりあの女性にそこまでの魅力があったようには思えないのだ。
何かをきっかけに意気投合するとか、あるいは彼女の言葉にハッとするとか、そういうシーンがないと彼の心の変化に観客は納得がいかない。
ここが一番重要だったのに、とても弱かった。

百歩譲って、彼は彼女にそこまでの魅力を感じていたとしても、彼は人種差別の愚かさに気付いて心の底から改心したわけではない。
女と一緒にいたいからグループから抜けたいだけ。
つまり根本的な問題の解決になっていないのではないか。

いやそもそも彼は本当に白人至上主義を信じていたのだろうか?
どういう考えの基に有色人種を恨むようになったのだろう?
おそらく理由なんてないんだろう。
あのネオナチ夫婦に拾われて、何となくそのコミュニティに入り、何となくそこから抜け出せなくなったんだろう。
途中で若い青年をグループに入れるシーンがあるが、彼もお腹が空いていて、行き場がないからグループに入っただけ。信念とかは別にない。

であるならば、おそらく暖かい家族を知らないであろう主人公が、家族を持つあの女性に魅力を感じる意味もわかる気がする。
でもそうなら、もっと普通の女性で良かったはずだ。極端に太った女性をキャスティングする必要もないし、彼女の元夫がネオナチの一員だった必要もない。
むしろそういう世界とは違うところで生きている「一般的な女性」で良かったのではないか。

事実を基にしている映画なので、事実に引っ張られすぎた結果、芯の通ってない弱い映画になってしまった気がする。
個人的にはもっとガンガン脚色して、映画的なカタルシスや感動を描いてもらいたかった。

と言えど、家族という新たな共同体を求めていたと解釈すると全て辻褄が合う。
新入りの青年にあんな態度をとったのも納得がいく。
「腹が減ったという理由でこんな所に来るな」というのは、「ネオナチなめんな」ではなく、「こんな所に入ったら俺みたいになっちまうぞ。抜け出せなくなるぞ」って意味だったのだ。

彼には差別的な思想は元々なくて、自分を拾ってくれたネオナチ夫婦から与えられた思想なだけであって、行き場のなかった彼はただその思想を持つことを”選んだ”だけ。生きる為に。
だからこれは差別思想から更生する話ではなく、あくまで抑圧的な共同体から抜け出そうとする話。

そして、権威的な父親の存在から逃れようとする話でもあるので、ファーザーコンプレックスあるいはエディプスコンプレックス的な映画かも。
いかにもアメリカ映画的だ。

観賞後は「アメリカンヒストリーX」の足元にも及ばないと思ってたけど、切り口が全く違うだけ。
よくよく考えていくと意外と深いわこの映画…
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