シャチ状球体

きみの瞳(め)が問いかけているのシャチ状球体のレビュー・感想・評価

2.2
よくある"自助・共助系恋愛映画"の一つで、不愛想な塁にも無邪気に明るく接する明香里の姿に作り手のジェンダー観が表れている。

夢を諦めてフリーター生活を続ける塁の前に現れる見た目や経歴を気にしない奔放な女性。つまり、"何もない自分にも支配できる従順な女性像"を正当化するために明香里を視覚障害という設定にしたのだろう。何故なら、男性側からすれば一方的に見た目をジャッジできるし、女性側からはジャッジされない。力のない女性を奉仕と引き換えに力強い男性が助けるという家父長制的な価値観が根底にあるのだ。

いくら愛想を振舞って敵を作らないことがマイノリティの生存戦略になるとはいえ、その構造自体の不均衡や公助、主権者としての一個人等の要素がクローズアップされないのは不自然。

あと、塁の「将来、子どもができたとき……」から始まる台詞もかなり酷い。この映画、相手に同意を取らないで勝手に物事を進めていく人ばかりで人権意識が希薄だし、ケア労働が美化されていたり裏社会がエンタメとして扱われたり、ついでに障害を意外性&感動ドラマのために利用していたりと最低が重なったような脚本がキツイ。

ラスト、明香里が「塁のいる所はここじゃないよ……」と言った後に「地獄だよ……一緒に戻ろ」と呟いて画面が暗転し、実はこの物語は自室で孤独死寸前だった塁が思い描いた空想だったことが分かる……(畳に転がった、吉高由里子がCMに起用されているコンビニの商品を映したカメラが徐々に引いていってエンド)みたいな終わり方だったら100点だったね(適当)。

最後に、エンドロールで流れる主題歌は本編以上にクオリティが高いので、映画のことは忘れてBTSの楽曲を聴くのがおすすめです。
シャチ状球体

シャチ状球体