甲斐てつろう

リチャード・ジュエルの甲斐てつろうのレビュー・感想・評価

リチャード・ジュエル(2019年製作の映画)
4.0
これぞクリントの至高。
初めてこの事件を知った時、間違いなくクリントが映画化するだろうなと思ったが案の定だった。

犯人に仕立て上げられたリチャードに対してFBIやメディアは「自分で爆弾を仕掛けて発見する事で英雄になるよう自作自演した」というように言うが彼らこそ自分が手柄を得るためだけに他者を堕とすのも厭わない悪魔だろう。

真相を探るために怪しい所から調べていかなきゃいけないのは分かるけどやり方があまりにも非人道的すぎる。
趣味とか読んでいた本などで人間性を疑いより犯人と思わせようとする辺りとか本当にその時代のクソな所を反映させていた。
面倒くさいから早く事件を終わらせたいだけに思える。
誰にだって起こり得る下品や暴力的な発言も都合よく切り抜き犯人像と無理やり一致させるなど正当な捜査とは言えないだろう。

みんな怖いんだと思う、だからこそ疑わしきは罰せよという風になってしまうのか。

下層の白人という立場、それに太っているからという理由で見下し卑下する。
都合の良い人間だと解釈し好き勝手に尋問する。
ある意味これは弱者の逆襲とも言える映画ではないのだろうか。

リチャードは必死に皆を想って助けたというのにその恩を仇で返すのが辛い。
彼は正しい事をしたいだけなのに何故このような運命を背負わなければならないのだろう。

無関係な母親にまで迫り精神的に追いやるやり方は本当に人の仕業ではない。
冤罪だった時の事をまるで考えていない。
お母さんの辛さも本当に見てて胸が痛かった、リチャード本人以上に無罪を望んでいたと思える。

犬の散歩もまともに出来ない。
そんな時にまでメディアはしつこく付き纏う。

捜査の段階で関わって分かるはず、リチャードはとても純粋で良い人だと。
そんな人にこんな非人道的な事を行い心は痛まないのか。
自分の功績の方が何よりも大切なのだろうか。


ただ自分がクリントの映画を好きな理由でもある要素がこの映画にも確かにあった。
"絶望的な状況でも少なからず味方でいてくれる人の存在が希望となる所"だ。

弁護士や母親など支えになってくれる者の偉大さがこれでもかという程に描かれている。

そして弁護士が思った事を全て言ってくれる。
これ以上心強い味方はいないだろう。
彼の存在がこの映画ではかなり大きかった。
リチャードの人の良さが裏目に出てしまう事が多かった中で彼が目を覚ましてくれた。
何でも神のように崇めるもんじゃない。
素晴らしいと思っていたものに裏切られる、そして目覚める。
皮肉にもリチャードはこの事件により本当の自分に目覚めたのかも知れない。

そしてお母さんの演説。
ただ気持ちを伝えているだけではあるがそれが素晴らしい。
演技力も凄まじく息子を想う気持ちがダイレクトに伝わって来る。

その流れでリチャード本人の言葉。
先程も述べた弁護士により目覚めたリチャードは遂に戦う覚悟を決めた、かつて自分が憧れていた存在と。

ラストシーンも素晴らしかった。
あえて大きなリアクションをさせず静かに語らせる。
リチャードの涙に思わず釣られてしまった。
その後の家の描写でリチャードの写真がアップになるのが素晴らしい。

流石クリント。
このような実際の事件を撮らせれば彼の右に出る者はいない。
次作も非常に楽しみである。
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